10. 文化的背景
図5は自動運転に対する関心と信頼を各国で調査した結果である。関心に関しては,どの国でもほぼ同様の傾向で,55~75%が自動運転技術に興味があると答えている。一方で,自動運転技術への信頼に関してはインドと中国がとびぬけて高いことが分かった。インドでは70%,中国では65%が自動運転技術を信頼できると考えており,信頼できないと答えた人は7%しかいなかった。信頼と不信にそれぞれ30%ずつが投票している西洋諸国の反応と対照的である。
中国,インドで自動運転への信頼が高いのは,技術に対する見方が楽観的であるという理由もあるが,交通安全状況が芳しくないことも少なからず影響しているだろう。
図6のグラフは,国民一人当たりのGDP毎を横軸に,人口千人当たりの交通事故の年間死亡者数を縦軸に示したものである。中国,インド,ブラジルなどの新興クルマ社会の交通事故死は,OECD加盟先進諸国と比較すると約4倍以上も多いことがわかる。
11. コスト問題
前述した通り,ADAS・自動運転の価格と価値,購買力とのギャップは埋まりつつあるものの,残された課題も多い。CMOSメーカーは自動車向けカメラのコストを1ドルまで下げることを目標にしている。一方で,フラッシュLIDARのコスト及び全方向スキャナーの可動部分の維持費用が自動車向けLIDAR導入の障壁となっている。
コスト削減は大量生産が必要とされる自動車市場に必須の条件ともいえるだろう。数年前にMEMS技術がクルマに導入された際には65%ものコストダウンが行われた。特にTPMS向けMEMS製品の導入当初の価格は10ドルであったが,その後急激に下落し,現在では標準装備に近いところまで来ている。
ADASパッケージの中でも導入傾向が違う製品もある。
こうした製品が広く市場に普及するためには約6割のコスト削減が必要となると考えられる。車内照明用LEDや次世代ヘッドランプもこのカテゴリに属する。
・ヘッドアップディスプレイなど,顧客から強い要望がある製品は,高い価格であっても採用が進むだろう。
継続的な設備投資により,大量生産がある程度実現した時点では,コスト削減は20〜30%しか進まず,顧客のニーズはまだまだ弱い。大量採用に至るには,この難所を乗り越える必要がある。
数年前まで暗視システムが似たような状況にあった。ある程度価格を抑えたにも拘らず,市場から予測したような反応が得られなかったのである。
また,MOST対応光トランシーバーとイーサネットの競合も記憶に新しいだろう。イーサネットは様々な用途で確立された技術で,業種横断的に潤沢な研究資金源を持っていた。そのため,将来的なコスト削減の可能性を見越して,MOSTではなく,イーサネットが採用されることが多かった。
センサーへの攻撃やジャミングに対する耐性についての考えもコストに影響を与える要因である。クルマに対するリモートアタックは現実に起こりうる問題として議論されてきた。最近では,ECUやソフトウェアに限らず,センサーがジャミングの対象となる危険性が指摘されている。レーダーは免許が必要な帯域で動作するが,LIDARが利用する中赤外領域は免許不要であるため,ジャマーやハッカーが活動しやすいのである。しかし,コスト面から考えると,光学リモートセンサーが普及するには,ジャミング対策をある程度犠牲にしなければならないかもしれない。