3. ADAS,自動運転の拡大要因
光学機器メーカーは防衛,科学,通信といった既存分野以外の新しい応用市場を求めている。こうした新しい市場こそが,現在までの光学機器市場の成長を後押ししてきたと言えるだろう。自動車業界で光学技術が採用された最初の例は,20年前の高出力レーザーによる金属加工にさかのぼる。以来,光学技術はクルマの製造ツールとして用いられてきたが,車載機器として導入される例は,最近までほとんどなかった。
近年,光学機器の製造及び維持のコストはどちらも大きく減少している。かつて光学機器は高額,小規模生産,専門用途といったイメージがあったが,現在では資本集約的な大量生産に移行し,信頼性が高く,比較的安価な製品の製造が可能になりつつある。
こうしたトレンドと安全性への懸念を背景に,クルマへの光学機器の導入の機運が高まっている。近い将来には,1億台規模の光学機器市場が新たに立ち上がると予測されている。
ADAS導入初期にフォーカスされたのは,車間距離適応走行制御,パーキング・アシストといった機能により,ドライバーにとっての利便性を高めることであった。しかし,2010年以降になると安全性への懸念が高まり,ADASシステムと,そこで必要となる光学技術の導入が真剣に検討されるようになった。死角検知,車線逸脱警告,交通標識認識などの事故防止,歩行者,二輪車などの交通弱者の保護がこれにあたる。
欧州では,クルマの安全性評価を行うEuroNCAP(ヨーロッパ新車アセスメントプログラム)によってアクティブセーフティが強く推進されてきた。一方,NHTSA(米運輸省道路交通安全局)の取り組みはEuroNCAPほど積極的ではなかったため,米国でのアクティブセーフティ普及は,当初,欧州より遅れていた。しかし,近年,その導入コストが下がるにつれて,NHTSAはアクティブセーフティを強力に推進するようになっている。
図2は,NHTSAの定義をもとにしたもので,自動運転への移行をレベル毎に表している。自動運転をけん引する要因のいくつかは,運転の快適性,安全性,渋滞軽減など,運転支援と同じだが,それ以外にも自動運転を後押しする特筆すべき要因がある。
・自動運転で空いた時間を有効利用することによる生産性の向上:ドライバーの30%は,自動運転中の時間を仕事あるいは新聞の購読にあてると予想されている。
・新たな運転者層の獲得:視力,身体的条件,年齢などから運転が不可能であった層を取り込むことができる。また,経済的理由からクルマの所有を諦めていた層にとっては,共同所有という選択肢が増える。
このように自動運転は自動車市場全体の拡大に貢献することになる。
4. 技術的トレンド
目的物検知,走行管理に用いられるレーダー,超音波,カメラなどは20年以上の歴史を持つ成熟した技術である。一方,ADASでは機能や対象範囲の拡張のため新しい技術を必要としている。Tier1サプライヤーのうち,Bosch,Magna,Continental,デンソー,現代,ZF,Valeoの7社では,光学センサー,映像システム,レーザースキャナーをADASに統合するという重要な取り組みが始まっている。ADASセンサーの主要メーカーであるBoschのレーダー,カメラの売り上げは過去2年で180%もの伸びを見せた。