②垂直共振器面発光レーザー(VCSEL)
従来のダイオードレーザーはpn接合面と平行方向に光を共振させ,その方向に光を出射する。しかし,VCSELはこの定義からはずれ,半導体基板に垂直に光射出する。すなわち,従来のレーザーは面内発光し,VCSELは面発光する。VCSELの利点は以下の通りである。
大量生産への適性:端面発光レーザーは,個別の素子に切り出すまで,初期不良の判定ができない。しかし,VCSELでは光出射が基板表面なので,基板を分割せずに品質チェックが可能で,品質管理,生産効率の面で優れている。さらには設計上の問題点の特定も容易である。
二次元配列性:面発光レーザーの垂直特性を活かし,化合物半導体ウエハに複数のレーザーを集積することができる。ウエハは基板上に配置された個々のICの集合体である。ウエハは,半導体材料を溶かし込んだインゴットから切り出され,研磨される。次の工程では,フォトマスクの回路パターンをウエハに転写してゆく工程を繰り返し,ウエハ上に複数層の回路パターンを生成する。
ウエハ表面に塗布される銅などの導電体の電気メッキにより,回路間の接続が確保される。プローブ試験によって,ウエハレベルで良品・不良品の選別が行われ,不良品のダイは破棄される。ガリウムヒ素など一般的な化合物半導体ウエハのサイズは3インチと言われている。ウエハのパターニングはすなわち,回路をウエハ表面に水平に作り込んでゆく工程である。面発光レーザーは二次元的に配列が可能であり,回路の高密度化がより容易となっている。
VCSELは光ファイバー通信など,高い正確性,精密性を必要とするアプリケーションで採用されることが多い。
VCSELは量子井戸と分布帰還型レーザーの原理を組み合わせている。垂直共振型面発光の場合,従来の面内発光と比較すると,活性層が非常に薄く,光閉じ込め係数が低いという特性がある。このため,VSCELの反射鏡には99%以上の高反射率が必要になる。高屈折率,低屈折率の材料を波長の4分1の光学的厚さに多層積層するブラッグ反射鏡がこれに用いられる。
VCSELでは,n型素材,p型素材と反射鏡が近接しているため,反射鏡がダイオード化してしまう。これを避けるため,設計上の配慮が必要となる。
その一方で構造が微小であることは,しきい値電流が低いということでもあり,従来のレーザーよりもエネルギー効率が高くなる。
VCSELの考案は30年以上前に行われ,以来,垂直発光と低消費電力の利点を活かす多様なハイブリッドレーザーが生み出されてきた。VCSELの効率性,機能特性を決定づける上で反射鏡は重要な意味を持つ。MEMS技術により,ファブリケーション後に調整可能となる反射鏡の開発が進行している。