非冷却遠赤外線カメラ市場の現状と今後のシナリオ

4. ターニングポイントの鍵は「車載」にあり

では,日本の商機はどこにあるのか。ここで注目すべきは,2016〜2018年までの年平均成長率をTSRでは62%増と強気に見通している点である。この背景にあるのは「車載」である。BMW,Audiなど欧米自動車メーカーの高級車の上位車種ではナイトビジョンシステムとしてサーマルカメラがすでに搭載されているが,欧州のEuro-NCAP等の影響により,まずは欧州向けの車種にてサーマルカメラの搭載が一気に加速する可能性が高まっている。

Euro-NCAPでは,2016年にAEBS(Advanced Emergency Braking System:先進緊急ブレーキシステム)とPD(Pedestrian Detection:歩行者検知)をポイント加算対象にすることを正式にアナウンスしており,1〜2年遅れで夜間走行時のAEBS+PDもポイント加算対象となることが濃厚視されている。

ポイント加算対象の機能を多く搭載し,ポイント数(★の数)が多いほど保険優遇措置を受けられる比率が高まることから,自動車メーカー各社はポイント加算対象となった機能を満たす製品搭載を加速させていく。この流れの中で,各自動車メーカーは今,サーマルカメラに熱視線を送っているのである。

サーマルカメラは熱(赤外線放射エネルギー)を検知し,夜間でも光源を利用することなくコントラストをパターン認識することができる。人間の波長帯は10μmであり,生体温度検出が可能なことから,夜間における人物検出では誤検知の心配がない。

また,150 m以上先まで可能な検知距離の点でも評価が高い。近赤外線カメラもナイトビジョン用に搭載されている事例もあるが,夜間は光源を必要とすることから,搭載車種が増えてきた場合,投光器同士のハレーション問題(人物がホワイトアウトして見えない現象)が生じてくる。また,フロントガラスが近赤外線カットガラスに移行していること,基本的に光源の届く範囲までの検知距離に留まることなどいくつかの課題が指摘されている。

ただし,日中の視認用にはサーマルカメラは適さないことから,最近ではダイムラーなどを筆頭に,サーマルカメラと近赤外線カメラを両方搭載し,画像処理で対応するケースも出てきている。今後,2017年前後のEuro-NCAPの動きに向けて,夜間でのPD向けにはサーマルカメラを最有力候補としながら近赤外線カメラ,レーダー,ライトコントロールなどとのヒュージョン搭載が加速することが予想される。

2013年の自動車の世界新車販売台数は8100万台,このうち欧州市場向けは22%を占めており,上位車種から搭載されたとしてもその数量規模は100万〜200万台程度となる。米国もNCAPで同様のポイント加算を実行すれば,さらに100万〜200万台規模の需要創出が見えてくる。

図1 車載向けサーマルカメラの価格課題克服への道筋
図1 車載向けサーマルカメラの価格課題克服への道筋

このシナリオを実現するために最大のネックとなっているのが1台30万円弱という価格である。普及を促すためには1台10万円を切る価格帯実現が必須となる。この低価格化に向け課題のひとつとなっていたのがセンサー,レンズなどの部材コストであったが,各社の努力によってコスト削減の道筋が見えてきた(図1)。

この車載向けの流れの中で,日本からも新規参入メーカー登場が予想されており,日本にとっても大きな商機として期待が高まっている。

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