1. はじめに
熱型赤外線検出器を集積化した非冷却赤外線イメージセンサの技術的な飛躍は1990年代初頭に起こったが,特に民生応用に関して,最近これまでの赤外線ビジネスにはなかった動向がみられるようになってきた。従来の非冷却赤外線イメージセンサの技術の延長線上にはない小規模赤外線アレイセンサの開発も活発になってきている。本稿では,赤外線センサのうち,特に小規模赤外線アレイセンサと非冷却赤外線イメージセンサに関する最新の動向を解説する。
2. 小規模赤外線アレイセンサの動向
日本では数年前から画素数が数十から数千程度のサーモパイル方式小規模赤外線アレイセンサの開発が活発になってきている。こうした小規模赤外線アレイセンサは,人体検知や機器の制御など詳細な画像情報を必要としない赤外線応用を広げるキーデバイスと期待されている。
小規模赤外線アレイセンサを用いた製品として代表的なものは,チノーの小型熱画像撮像装置TP-L0260EN1)である。この撮像装置には,48×47画素のサーモパイル赤外線アレイセンサが使用されており,3〜6フレーム/秒のフレームレートで動作させることができる。温度分解能は0.5℃と報告されている。
この熱画像撮像装置に用いられている赤外線アレイセンサの基本技術は日産自動車で開発され,ラピスセミコンダクターが生産している2)。チノーは,同じ赤外線アレイセンサを用いて,図1に示すような概観の小型赤外線撮像ユニット3)も開発している。このユニットのサイズは5.8×2.9×2.0 mm(TP-L0260ENの1/8)で,重量は30 g(同1/5)と小型化が大きく進んだ。
パナソニック(旧パナソニック電工)は2012年小規模赤外線アレイセンサのデバイス販売を開始した。パナソニックのデバイスはGridEYEという名称の8×8画素のサーモパイル赤外線アレイセンサ4)である。GridEYEは11.6×8.0×4.3 mmのリフォロー対応小型SMDパッケージ内に赤外線センサと信号処理用のASICを内蔵しており,0.25℃の分解能で温度出力することができる。
オムロンも1×8画素と4×4画素のサーモパイル方式赤外線アレイセンサ5)の販売を既に開始しており,最近16×16画素の素子6)を発表している。この素子には,新たに開発したウエハレベルの真空パッケージング技術を適用しており,雑音等価温度差0.15℃というサーモパイル方式としては高い性能を実現している。
こうした小規模赤外線アレイセンサの解像度はサーモグラフィには不十分であるが,最近可視光画像とブレンドすることを前提とした安価なサーモグラフィ装置の販売されるようになってきた。その代表例がFlukeのVT027)で,このサーモグラフに用いられている赤外線アレイセンサは15×15画素である。
赤外線アレイセンサをカラー化(多波長化)する試みも報告されている。図2は,こうしたカラー赤外線アレイセンサの画素構造の一例8)で,この例ではプラズモニクス技術により赤外線吸収部の波長選択性を制御している。この方式では,従来のサーモパイル製造工程にマスク1枚分の工程を追加するだけで,一つのアレイセンサ上に複数種類の分光感度特性をもった画素を形成することができる。