「赤外線センサ」の最近の話題

3. 高性能赤外線イメージセンサの動向

高性能赤外線イメージセンサに関しては,2〜3年前まで画素ピッチ25μmの製品が主流であった。その後,画素ピッチの縮小は進み,主要な高性能赤外線イメージセンサメーカは画素ピッチ17μmの技術開発を終了している。現在画素ピッチが12μmのデバイスの開発例もみられるようになってきた。画素サイズ縮小に伴って,高解像度化が進展している。

NECは,NEDOの支援で開発した画素ピッチ12μmの640×480画素の抵抗ボロメータ方式の非冷却赤外線イメージセンサ9)を今年春のSPIE国際会議で発表した。この素子では,従来のボロメータ材料である酸化バナジウムにニオブを添加することで比抵抗の増大を押さえつつ高い抵抗温度係数を実現し,感度改善を図っている。また,新たに3層犠牲層MEMSプロセスを開発し,小さな画素で高い断熱性を実現している。

三菱電機は,JAXAとともに開発した画素ピッチ15μmの200万画素SOIダイオード方式赤外線イメージセンサ10)を発表している。この素子の基本的な画素構造は25μmピッチのものと同じであるが,温度センサとなるダイオードの占める面積を小型化する技術を開発することで画素ピッチを縮小している。

図3 200万画素SOIダイオード方式非冷却赤外線イメージセンサによる撮像例
図3 200万画素SOIダイオード方式非冷却赤外線イメージセンサによる撮像例

この素子は,チップサイズが40.3×24.75 mm2と大きく,通常LSIプロセスに使用されているリソグラフィ装置の露光可能サイズを超えるため,2枚のレチクル(リソグラフィに用いるマスク)を用いて一つのマスク工程のリソグラフィを行うステッチング技術により作製されている。図3にこの素子を用いて得られた赤外線画像の例を示す。

メガピクセルの解像度を持った素子としては,三菱電機の例以外に,米国レイセオン社が,画素ピッチが17μmの300万画素の素子11)があり,一般に入手可能な最も解像度が高い素子としてはフランスのウリス社の画素ピッチ17μmの 1024×768画素の素子12)がある。

欧米の高性能赤外線イメージセンサのメーカでは,最近ローエンド市場へ進出しようという動きがみられる。これまでに述べたように非冷却赤外線イメージセンサの画素ピッチ縮小は高解像度化に寄与してきたが,同時に前世代素子の小型化という意味で低コスト化にも大きな役割を果たしてきた。

図4 画素ピッチ縮小によるイメージエリアの縮小
図4 画素ピッチ縮小によるイメージエリアの縮小

図4はその状況を説明する図である。例えば320×240画素を考えると,画素ピッチが17μmの素子のイメージエリアは,画素ピッチ50μmの素子の1/10程度しかない。LSIのコストがチップサイズで決まるように,大雑把にみれば赤外線イメージセンサのコストもイメージエリアに比例していると考えてよく,画素ピッチ縮小が低コスト化にいかに大きく寄与したかが理解できる。

最近は,用途を限定した低解像度版により,さらに低コストを目指そうという動きもみられるようになってきた。こうした動向の代表例としては,米国フリアー社のi3サーモグラフィカメラ(画素数60×60画素)13)やフランスのウリス社が最近販売を開始した80×80画素非冷却赤外線イメージセンサ14)がある。

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