ミニインタビュー
松隈先生に聞く
精密な計測が役立つことに期待を抱く
─この研究を始めたきっかけを教えてください。
(松隈)実を言うと,精密工学の研究を始めたのはこの研究室で職を得たというところが大きいですね(笑)。ただ記事の研究は自分で開拓してきたもので,研究を進めるにつれて光周波数コム自体が面白いと思うようになってきました。光周波数コムはGPSを使って常に校正できます。これは精密な計測にとって重要な研究だと思っています。
─この研究の面白さを教えてください。
(松隈)例えば,自律校正の研究では,これまでお金がかかっていた校正が,コストをかけないでできるようになります。アイデア勝負で人の役に立てるところが,この研究の面白さだと思っています。
─研究している中で苦労していることはありますか。
(松隈)光学素子がすべて高額なことです。ミラーでも一枚2~3万円しますし,他にも5万円や10万円する光学素子もざらです。あとは,先ほどアイデアで勝負できるという話をしましたが,逆に言えばアイデアが出ない日々は地獄になります。
もう一つは,一般的な光関係の先生だと流体や物性など計測対象自体が面白い研究が多いと思いますが,私の場合,精密工学分野なこともあって計測対象が地味です。なので研究として面白い対象も探さないといけないと思っています。
─この研究がどのように応用されることを期待していますか。
(松隈)産業的には,半導体プロセスや工作機械への応用を期待しています。精密な計測を実現することで,より精緻な制御やものづくりができるようになると期待しています。
─若手研究者が置かれている状況をどう見ていますか。
(松隈)目先の利益が重要視される時代になったと思っています。例えば論文の指標(h-index,FWCI)があり,それに連携した成果を出すことが大学でも要求されるようになっています。それにもかかわらず10年経つと,別の指標が出てきて,それまでの指標が役に立たなくなるだけでなく,逆に足枷になってしまうことも起こり得ます。最近は分野ごとに重みが決められていて,そこで2〜3年の引用数が少ない論文を書いた人は損をする時代です。こうしたものに振り回される時代は,果たして正しいのでしょうか。
─さらに若手や学生に向けてメッセージをお願いします。
(松隈)何が大切か見極める力が重要だと思っています。本質的に意味がないことに時間を費やしていると実力はつきません。若手時代や学生時代は,自分の面白いと思うことを突き詰めるべきです。ここを見極める力は大切だと考えています。
(聞き手:梅村舞香/杉島孝弘)
マツクマ ヒラク
所属:東北大学 工学部機械知能系 准教授
略歴:1984年生まれ。2008年京都大学工学部物理工学科卒業。2013年京都大学大学院工学研究科機械理工学専攻 博士後期課程修了。博士(工学)。2013年大阪大学レーザー科学研究所 特任研究員。2017年東北大学工学研究科ファインメカニクス専攻助教。2021年同准教授。現在に至る。
趣味:モータースポーツの観戦(主にF1などの四輪。シミュレーターを購入する本格派)
(月刊OPTRONICS 2024年11月号)