ミニインタビュー
熊本先生に聞く
ラマン分光技術で困難な課題を解決する
─この研究を始めたきっかけを教えてください。
(熊本)私は大阪大学で応用物理の研究をしていましたが,もう少し応用を肌で感じる研究をしたいと思っていたところ,2015年に京都府立医科大学の助教の公募があって応募しました。それ以来,光計測,特にラマン分光の医療応用の可能性を探ってきました。そこで当時一緒に研究していた髙松哲郎先生(京都府立医科大学 医学フォトニクス講座 教授)が,ラマン散乱光をつかって神経を検知するという研究をされていて,一緒に始めたのがきっかけになります。
─研究の面白さを教えてください。
(熊本)一つは光学や医療分野はもちろん,データ解析のための機械学習や情報学といった様々な分野が混ざっていて,各分野の最先端あるいは生の情報に触れることができるところです。もう1つは,臨床医の先生,医療機器薬事承認のプロ,事業化のプロと一緒に,開発技術の事業化を目指していくところです。
─研究で苦労していることはありますか。
(熊本)さまざまな分野のブロと一緒に研究開発や事業化を進めていくのは,面白い反面,私自身が勉強をする必要にも迫られるため,苦労するところでもあります。教えてもらいながら勉強していくのは,時間がかかるし労力も費やします。他では,研究室の学生にやってもらう範囲を決めるのはいつも苦労しています。研究から離れた薬事や事業化のための取り組みは,自分自身でなんとか時間を作って行なうようにしています。また,基礎に近い研究と事業化のための取り組みにかける労力のバランスにも苦労しています。
─この研究がどのように応用されることを期待していますか。
(熊本)私たちの技術によりラマン分光による高スループットの空間分析を行えるようになり,臨床現場のアンメット・ニーズの解決につながることを期待しています。また,医療に限らず様々な分野で,今までできなかったアプリケーションが可能になることを期待しています。
─若手研究者が置かれている状況をどう見ていますか。
(熊本)若手の支援自体は充実していると思いますので,生き残りという意味では,厳しい環境に置かれているとは思いません。しかし,分野によっては,学会や仕組みなどが出来上がってしまっていて,たとえば自分のテーマにはまる研究会を立ち上げるといった人を巻き込んで行なう新しい活動は,やりづらいのではないかと思います。
─さらに若手や学生に向けてメッセージをお願いします。
(熊本)まずは,研究や勉強を楽しんでください。勉強は,大学の勉強に限らず,自分の将来のためになれば何でもいいと思います。また,特に大学の方は,基礎研究をする場合でも,自分の研究を社会に役立てる,という意識を持ってもらえたらと思います。そうすることで,視野が広がり,ネットワークが広がり,チャンスが増えてくるのではないかと思います。
(聞き手:梅村舞香/杉島孝弘)
クマモト ヤスアキ
所属:大阪大学 先導的学際研究機構 フォトニクス生命工学研究部門
略歴:2011年大阪大学大学院工学研究科精密科学・応用物理学専攻応用物理学コース博士後期課程修了。博士(工学)。理化学研究所および大阪大学大学院工学研究科の博士研究員を経て,2015年京都府立医科大学大学院医学研究科助教,2019年大阪大学大学院工学研究科助教,2023年現職。専門は紫外フォトニクス,ライフフォトニクス。日本分光学会奨励賞,応用物理学会講演奨励賞,日本生体医工学会大会Young Investigator’s Award 最優秀賞等を受賞。SPIE終身会員,OPTICA会員,日本応用物理学会会員,日本分光学会会員。
趣味:息子(現在5歳)と虫捕り,ザリガニ釣り,鯉の餌やりなどをして遊ぶこと
(月刊OPTRONICS 2024年8月号)