熱画像解析による土壌有機物量計測技術の開発

2. 計測原理概要

図1 通常の腹腔鏡で視認困難な例
図1 計測装置概要

図1に計測装置の概略図を示す。加熱ランプを用いて土壌表面を時間的に一定の強度で加熱する。土壌表面温度の時間変化を,赤外線サーモグラフィーを用いて時系列の熱画像として記録する。記録した熱画像の全ての画素に対応する温度の時間変化を解析し,その特徴から土壌有機物と土とを識別し,土壌有機物の含有割合を算出する。著者らは,加熱時の温度変化を時間の平方根で整理すると,図2に示すように土などの鉱物由来の物質では一定の上昇率を示すのに対して,粗大な土壌有機物である稲わらやバークたい肥,木炭では,温度の上昇率が徐々に低下することを見出した6)

図2 NIR-HSIによる組織深部に存在する胃がんの可視化検討
図2 各物質の加熱時の温度変化比較

本技術では,時間の平方根に対する温度上昇率が徐々に低下する部分を「土壌有機物」,温度上昇率が変化しない部分を「土」や「砂」として識別する。具体的には,以下に示すように加熱初期(t=t1t2)の時間の平方根に対する温度変化の勾配∆T1(式⑴)と,一定時間経過後(t=t3t4)の時間の平方根に対する温度変化の勾配∆T2(式⑵)とを求め,それらの勾配の変化率C(式⑶)を求める。

式⑴  ⑴

式⑵  ⑵

式⑶  ⑶

C≒1の画素は時間の平方根に対する温度の傾きが変化していないことを意味することから,「土」や「砂」として識別する。C<1の画素は,時間とともに温度上昇率が低下することを示すことから「土壌有機物」として認識する。全画素数に対するC<1の画素数の割合を求める事で,測定領域に占める土壌有機物の含有割合を求めることができる5)。本技術は,土壌からサンプルを採取する必要がなく,現場であるがままの状態で,簡便に計測する事が可能である。また温度そのものではなく,温度変化の傾向の差異を利用して識別を行うことから,加熱光の波長や強度,対象物の放射率や熱物性,初期温度や周囲温度などに依存せず,環境条件や使用条件に左右されないロバストな計測技術である。

同じカテゴリの連載記事

  • 光ウェアラブルセンサによる局所筋血流と酸素消費の非侵襲同時計測 明治大学 小野弓絵 2024年09月10日
  • 関心領域のみをすばやく分子分析するラマン分光技術 大阪大学 熊本康昭 2024年08月12日
  • 組織深部を可視化する腹腔鏡用近赤外分光イメージングデバイスの開発 (国研)産業技術総合研究所 髙松利寛 2024年06月10日
  • 8の字型構造の活用による高効率円偏光発光を示す第3世代有機EL材料の開発 名古屋大学 福井識人 2024年05月07日
  • 高出力半導体テラヘルツ信号源とその応用 東京工業大学 鈴木左文 2024年04月09日
  • 半導体量子ドット薄膜により光増感した伝搬型表面プラズモンの高精度イメージング 大阪公立大学 渋田昌弘 2024年03月06日
  • 大気環境情報のレーザーセンシング技術 (国研)情報通信研究機構 青木 誠,岩井宏徳 2024年02月12日
  • 光の波長情報を検出可能なフィルタフリー波長センサの開発 豊橋技術科学大学 崔 容俊,澤田和明 2024年01月15日