3. 再生動作と記録動作
再生動作の確認用に試作した素子の光学顕微鏡像を図3に示す。再生層の材料としては,磁気光学効果が大きく光吸収の少ない磁性酸化物結晶であるイットリウム鉄ガーネット(YIG)などが適しており,本研究ではイットリウムの一部をセリウム置換したCe:YIGを用いた。記録層の材料としては,比較的保磁力が小さくかつ残留磁化は大きい軟磁性体が適しており,本研究ではボロン添加コバルト鉄(CoFeB)を用いた。
単結晶成長したCe:YIG膜の上にアモルファスシリコンを導波路コアとして形成し,その上部に記録層となるCoFeBおよび磁場印加用の金属コイルを形成した。まず,金属コイルに電流を流し再生層を任意の方向に磁化した後,電流がない状態で素子の光透過率スペクトルを測定した。図4(a)に示すように電流を流す方向を反転して磁化した後は共振波長のシフトが観測され,消光比は最大で21 dBが得られた。また,磁化する際の電流値を少しずつ変化させて光透過率をプロットした結果を図4(b)に示す。 CoFeBの残留磁化に応じたヒステリシス特性が得られており,記録層にメモリされた磁化情報を光強度として再生されることが実証できた4)。
次に,記録動作として,光導波路上に装荷した記録層の光による磁化制御について実験を行った。予備実験では,6.8 mWの光入力によって導波路上に装荷した金属層を局所的に300℃程度まで加熱できることを確認している5)。これは特に表面プラズモン伝搬を介して吸収が起こるTMモード光に対して顕著である。
シリコン導波路上に300 nm厚のSiO2層をはさんでCoFeB記録層を形成し,その磁化状態の変化を磁気カー効果顕微鏡により観測した。観察画像のコントラストの変化から外部磁場に対する磁気特性を抽出し,入力光の強度による違いをプロットしたものを図5に示す。光入力が強くなると保磁力が減少し,入力光強度12.5 mWで20 Oe以上の保磁力の変化が得られた。
次に,この保磁力が変化する中間点として80 Oeの外部磁場を反対向きに印加したレディ状態にし,50 ns幅の光パルスを光導波路に入力した。図6はその観察結果であり白黒のコントラストが磁化状態に相当する。光導波路の外側に形成したダミーのCoFeB層は磁化反転せず,光導波路上部のCeFeB層のみが磁化反転したことが確認できた。このことから,光信号から記録層の磁化情報としての記録を実証できた6)。
4. おわりに
本稿では光導波路を用いた光磁気記録メモリの研究開発について紹介した。レンズなどの空間光学系を使わずに,光導波路を伝搬する光で書き込みや読み出しを行う光回路を提案しており,再生動作および記録動作それぞれの動作実証に成功している。今後はこれらを両立するデバイス構造を確立し,光メモリとしての読み書き動作の実証を目指す。これが実現されれば,冒頭に述べた光通信や光信号処理,近年研究が盛んになっている光演算回路7)などへの応用が期待される。
謝辞
本研究の一部は,NEDO(JPNP13004,JPNP16007), JST CREST(JPMJCR15N6,JPMJCR18T4),JSPS 科研費(19H02190)の助成を受けて行われたものである。本研究を遂行するにあたり,共同研究者である東京工業大学水本哲弥教授,村井俊哉氏および研究室の所属学生の皆さんに多くのご協力を頂いた。ここに記して深く感謝申し上げる。
2) R. S. Tucker, S. S. Mughal, and K. Hinton, “In search of the elusive all-optical packet buffer,” Proc. Int. Conf. Photonics in Switching (PS), San Francisco, CA, 2007, pp. 3-4.
3) 庄司雄哉,水本哲弥,“導波路型光メモリ素子”,特許第6590147 号.
4) T. Murai, Y. Shoji, N. Nishiyama, T. Mizumoto, “Nonvolatile magneto-optical switches integrated with magnet stripe array,” Optics Express, vol. 28, no. 21, pp. 31675-31685 (2020).
5) T. Murai, Y. Shoji, T. Mizumoto, “Efficient light-to-heat conversion by optical absorption of a metal on an Si microring resonator,” J. Lightw. Technol., vol. 37, Issue 10, pp. 2223-2231 (2019).
6) T. Murai, Y. Shoji, T. Mizumoto, “Light-induced Thermomagnetic Recording of Ferromagnetic Thin-film on Silicon Waveguide for Solid-State Magneto-Optical Memory,” Optical Fiber Communication Conference (OFC) 2022, San Diego, USA, 2022, M2E.3.
7) K. Kitayama, M. Notomi, M. Naruse, K. Inoue, S. Kawakami, and Atsushi Uchida, “Novel frontier of photonics for data processing–Photonic accelerator,” APL Photonics, vol. 4, p. 090901 (2019).
■Tokyo Institute of Technology, Institute of Innovative Research(IIR), Laboratory for Future Interdisciplinary Research of Science and Technology(FIRST), Associate Professor
(月刊OPTRONICS 2022年4月号)
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