2. 転写プリント法の概要
図1に転写プリント法によるハイブリッド光集積プロセスの概要を示す。まず転写対象となる異種材料による光素子を同材料基板上で作製する。ここでは,フォトニック結晶ナノビームを多数並列して形成した状況を表している。この時,玩具のプラスチックモデルのように,取り外し可能な中空構造として形成することが重要である。ただ,完全に中空でなくても,ピックアップ後に素子下面を清浄にできるのであれば,どのような素子構造でも構わない。
一方,転写先となる光回路も別途作製する。シリコン等であればプロセスファウンダリで光回路を作製することで,プロセスそのものの分業も可能となる。次に,PDMS(Polydimethylsiloxane)等で作製した透明な粘弾性ゴムにより形成したスタンプを転写対象のナノビームに密着させる。その後,垂直方向へスタンプを急速に移動することで,スタンプと素子との接着力を高め素子をピックアップする。
その後,持ちあげた素子を光学顕微鏡で観察し位置合わせしつつ光回路上へ設置する。その後,スタンプをゆっくりと引き上げることで接着力を低下させ,素子のみを光回路へ転写する。操作速度により接着力が変化する物理は,テープを紙から剥がすときと同じものであり,日常生活の直感から理解できる。
図2(a)には,著者らが開発した転写プリント装置のプロトタイプ3)を示す。光学顕微鏡下に2台の操作ステージが設置されている。片側のステージにガラス板を取り付け,その先端にPDMSスタンプを設置してある。もう一方のステージ上に異種材料基板と光チップを並列して設置してあり,顕微鏡で観察しながらPDMSスタンプを操作し転写集積を実行する。
プロトタイプでは,ピエゾステージ以外は手動操作であるが,電動化も視野に入れ,開発を続けている。図2(b)は,転写最中の光学顕微鏡イメージである。四角の枠として観測されているものがPDMSスタンプである。その下に,フレームに囲われたナノビーム構造と光導波路が同時に観測されていることが分かる。素子および光回路に設置した位置合わせマーカーを観測しつつ転写集積を行う。
図2(c)は,転写後の光学顕微鏡である。光導波路へ高い位置精度でナノビーム構造が転写されていることが分かる。別途行った評価から,平均して±50 nm程度の精度で転写集積が可能であることが分かっている。画像認識と自動化によりさらなる高精度化も可能であると見込まれる。