4. おわりに
本稿では,円偏光の直接検出を高感度に実現するための新しいハイブリッド構造と素子について紹介した。従来の半導体や超伝導体を用いた光子検出器とは全く異なる構造を用いた素子であり,有機材料と無機半導体の機能を化学的に融合することでのみ,円偏光の直接検出が実現できる。
本成果により,偏光をフィルターなしで検出することが可能となれば,偏光検出の著しい高感度化や装置の小型化など,これまで可視化できなかった物体表面の情報や応力の認識などを実現する新しいセンシング技術への応用や,既存の検出器では成し得なかった光の偏光状態に対するフルストークスパラメータのイメージングの実現が期待される。
これまで利用することが困難であった光の偏光を精密に捉えるための物質開発は,従来の限界を超える光計測・センシング技術の創出を可能とする革新的な技術となりうる。将来的には,複数の物理量を含む光の情報を制御・計測する全く新しい原理を物質化学の視点から作り上げることで,新しい学理や応用への路を切り拓きたいと考えている。
謝辞
本研究を遂行するにあたり,桐蔭横浜大学宮坂力先生ならびにJSTさきがけ光極限領域(研究総括:植田憲一先生)に多大なご支援をいただいた。ここに感謝の意を表する。
J. Appl. Phys., 39, L809 (2000).
2) G. J. Rees, J. P. R. David, J. Phys. D: Appl. Phys., 43, 243001 (2010).
3) S. Kasap, J. A. Rowlands, S. D. Baranovskii, K. Tanioka, J. Appl. Phys., 96, 2037 (2004).
4) H. Takesue, S. W. Nam, Q. Zhang, R. H. Hadfield, T. Honjo, K. Tamaki, Y. Yamamoto, Nature Photon. 1, 343 (2007).
5) A. Ishii, A. K. Jena, T. Miyasaka, J. Phys. Chem. Lett., 10, 5935 (2019).
6) A. Ishii, T. Sakai, R. Takahashi, S. Ogata, K. Kondo, T. Kondo, D. Iwasawa, S. Mizushima, K. Yoshihara, M. Hasegawa, ACS Appl. Mater. Interfaces, 10, 5706 (2018).
7) A. Ishii, Y. Adachi, A. Hasegawa, M. Komaba, S. Ogata, M. Hasegawa, Sci. Tech. Adv. Mater., 20, 44 (2019).
8) A. Ishii, M. Hasegawa, Sci. Rep., 7, 41446 (2017).
9) A. Ishii, T. Miyasaka, in preparation.
10) Y. Yang, R. C. Costa, M. J. Fuchter, A. J. Campbell, Nature Photon., 7, 634 (2013).
11) A. Ishii, T. Miyasaka, Science Adv., 6, eabd3274 (2020).
12) T. Miyasaka, Bull. Chem. Soc. Jpn., 91, 1058 (2018).
■Associate Professor, Faculty of Life and Environmental Sciences, Teikyo University of Science
(月刊OPTRONICS 2021年6月号)
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