金属微細構造作製技術とプラズモニクス応用

図1 電子線リソグラフィにより作製した同心円状金属周期凹凸構造
図1 電子線リソグラフィにより作製した同心円状金属周期凹凸構造

電子線リソグラフィにより同心円状周期凹凸構造をパターニングし,真空蒸着にて金属薄膜を成膜後,集光イオンビーム加工により中心部に開口を作製した。図1は,周期400 nm~700 nmにて作製した提案構造のSEM像を示す。表面の銀薄膜に対しても周期的な凹凸が反映されていることが分かる。中心部には直径100 nmの開口が作製されている。この作製構造に白色光を照射し,透過光分布を観測した。

図2は,作製した周期350 nm~700 nmのプラズモニックカラーフィルタの透過光分布と透過スペクトルを示す。中心開口部からの透過光が,周期に応じて青色から赤色に変化することが観察された。RGBの3原色だけでなく,中間色も弁別されることが分かった。スペクトル結果より,凹凸周期に比例して透過波長が長波長シフトした。透過波長帯域はおよそ100 nmであり,可視近赤外域にかけて8バンドのマルチバンド透過スペクトルを実証した。今後,プラズモニックカラーフィルタをオンチップ形成した新規マルチバンドイメージセンサの開発を目指す。

図2  同心円状金属周期凹凸構造の透過光分布および透過スペクトル
図2  同心円状金属周期凹凸構造の透過光分布および透過スペクトル

3. 化学合成法により作製した結晶性銀ナノワイヤのナノ空間光導波

結晶性金属は界面が結晶面にて制御され,欠陥が極めて少ない。そのため,電子振動に対する抵抗が低く,理論値に近い表面プラズモン共鳴特性を示す。本研究では,結晶性銀ナノワイヤをポリオールプロセスにより作製した。ポリオールプロセスは,高分子キャッピング剤の存在下において金属塩にポリオールを作用させることにより金属ナノ構造体を作製する化学合成法である。銀ナノワイヤの合成には,主に銀イオンの供給源である硝酸銀,還元剤および溶媒であるエチレングリコール,界面活性剤であるポリビニルピロリドンが用いられる5)

およそ140℃に加熱されたエチレングリコールは,脱水反応によりアセトアルデヒドになる。アセトアルデヒドは硝酸銀を還元し,十面体構造の銀シードを生成する。加熱を続けることによりシードがワイヤ状に成長する。図3は,反応時間10分毎の溶液色変化を示す。合成条件は,硝酸銀濃度125 mM,PVP濃度150 mM,塩酸濃度3 mM,反応温度140℃とした。反応開始時の溶液色は銀ナノ粒子の局在表面プラズモン共鳴に起因する黄色透明を示した。

図3 銀ナノワイヤ合成時の反応時間に対する溶液色変化
図3 銀ナノワイヤ合成時の反応時間に対する溶液色変化

形成される銀シードの量が増加し,反応時間40分から溶液色は不透明となり,ワイヤ成長するにつれ,黄灰色,灰色,乳白色へと変色した。反応時間90分以上では溶液色変化は見受けられなかった。図4は,溶液色が乳白色となった反応時間90分における生成物のSEM像を示す。平均直径100 nm,平均長さ10 μmの結晶性銀ナノワイヤが多数生成されていることが分かる。銀ナノワイヤ生成率(生成した銀構造物のうちワイヤ形状の占める割合)は,およそ87%であった。

ポリオールプロセスにより作製した結晶性銀ナノワイヤを用いて,局所励起光学系により表面プラズモン共鳴伝搬を観察した。作製した銀ナノワイヤの一端に白色光を基板側から油浸透対物レンズ(N. A. = 1.49)を用いて集光照射した。透過側においてワイヤ端から発生した散乱光を顕微分光観察した。

図4 ポリオールプロセスにより作製した結晶性銀ナノワイヤのSEM像
図4 ポリオールプロセスにより作製した結晶性銀ナノワイヤのSEM像

図5(a)は長さ9.6 μmの結晶性銀ナノワイヤの明視野像を示す。図5(b)は図5(a)と同じ視野にて,銀ナノワイヤ左端に白色光を集光励起した場合の散乱光顕微観察結果を示す。光励起されていないワイヤ右端より,赤色光の輝点を観測した。図5(c)はワイヤ右端散乱光スペクトルの計測結果を示す。スペクトル強度は,ワイヤが存在しない場合の背景光にて規格化した。ワイヤ長軸方向に平行な入射偏光励起時において,波長550 nm近傍から強度が上昇し,複数のピークを示すスペクトルを観測した。

図5  結晶性銀ナノワイヤの(a)明視野像,(b)白色光局所励起光学像,(c)散乱光スペクトル
図5  結晶性銀ナノワイヤの(a)明視野像,(b)白色光局所励起光学像,(c)散乱光スペクトル

一方,ワイヤ短軸方向に平行な入射偏光励起時は,背景光と同程度の一定値を示した。ワイヤ長軸方向に平行な入射偏光励起時に複数のピークが観測されたことから,表面プラズモンによる光伝搬がファブリーペロー共振に基づく共鳴振動であることを実証した。各ピ ークは,ワイヤ長軸方向のプラズモン共鳴振動の高次振動モードである考えられる。このようなナノ空間光導波技術は,今後,光集積回路や超解像イメージングレンズへの応用が期待される6, 7)

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