例えば,金や銀などの貴金属が微小化することで局在表面プラズモン共鳴(Localized surface plasmon resonance:LSPR)に起因する特異的な色彩が観察できる4)。
ナノメートルサイズの構造は,材料・サイズなどを制御することにより種々の光学特性(散乱・回折・蛍光など)を発現させることが可能であり,現在は光通信・太陽光発電などへの応用が精力的に進められている。
筆者らが,ナノフォトニクスを基盤技術としたバイオセンサ開発に取り組んでいるのは,学術的新規性だけではなく,従来のバイオセンサと比べ,さらなる高感度化・集積化が期待できるためである。観察される光学特性は,使用する材料固有の物性(誘電率など)と周囲の環境変化に対して鋭敏に変化する。
そこへ抗原抗体反応やDNAハイブリダイゼーションなど種々の生化学反応が周囲で生じた場合,顕著な光学特性変化を観察することができる。
これは1分子レベルでの生化学反応を検出・定量可能であることを示唆しており,従来のバイオセンサでは困難であったさらなる高感度化が期待できる。加えて,個々の構造は非常に微小であることから構造を高密度に配置することができる。
本稿では,現在筆者らが取り組んでいるフォトニクスデバイスの作製とバイオセンサ応用について紹介する。
2. 印刷技術を用いたナノフォトニクスデバイス作製
前述した背景から筆者らはナノフォトニクスを基盤技術としたバイオセンサ開発を行っている。しかし,ナノメートルサイズの構造を作製するには,ナノ粒子合成や電子線描画装置,反応性イオンエッチング装置などを駆使した半導体微細加工技術を用いて作製することが主である。
しかし,ナノ粒子合成には高い技術を要するとともに,大量合成,基板上への配置・集積化にも技術が必要となる。また半導体微細加工技術を用いて作製するには,高額な装置が必要となり,クリーンルームなどの作製環境整備・維持も必要である。
そこで筆者らはナノメートルサイズの構造を樹脂基板・フィルム上へ転写・印刷する技術である,ナノインプリントリソグラフィー(Nanoimprint lithography:NIL)に着目した。NILは,微細な凹凸構造を有する金属などの鋳型(モールド)を樹脂材料に圧着することで,ナノメートルサイズの構造を転写・印刷することができる(図1)5)。
NILでは,鋳型自体は半導体微細加工技術を用いて作製するが,鋳型自体の複製も可能であり,鋳型が汚損しない限り,複数回再現よく構造転写・印刷が可能となる。筆者は企業と連携することで,4インチサイズのナノフォトニクスデバイスを作製することにも成功している。
作製したナノフォトニクスデバイスは,安価な樹脂フィルム上へ作製していることから高い柔軟性を有し,容易に裁断することも可能である(図2)。
加えて構造転写・印刷に使用する樹脂材料自体も選択肢が多いため,用途に応じて使い分けることも可能であるうえ,樹脂材料中に異種材料を包含させることも可能である。筆者らはこれまでに,色素やナノ粒子など異種材料を包含させてナノフォトニクスデバイスを作製することに成功している。
異種材料を包含させることは,ナノフォトニクスデバイス自体の高屈折率化,発蛍光など樹脂単体で作製したナノフォトニクスデバイスでは実現困難であった新規機能を発現させることが期待できる。