要旨
本稿では、我々が現在取り組んでいる印刷技術を用いたナノフォトニクスデバイス作製とそれを用いたバイオセンサ開発について概説する。
1. はじめに
バイオセンサとは,酵素や抗体,DNAといった生体由来物質が有する機能(分子認識能・触媒能)を利用したセンサであり,生体由来物質と測定対象物質とが結合など反応することによって生じる種々の変化(重量・屈折率など)を検出することで測定対象物質のみを特異的に検出・定量することが可能となる1)。
バイオセンサは,これまでに血糖値センサや妊娠診断薬が実用化され,医療や創薬・環境計測・食品衛生検査など幅広い分野での応用が期待されるとともに,様々な検出原理を用いたバイオセンサの開発が精力的に進められている2)。
特に近年では,医療応用,特に疾病発症・重篤化を未然に防ぐために疾病に関連するマーカー分子(測定対象物質)を低濃度でも検出・定量可能なバイオセンサの開発が進められている。これは,生活習慣病や癌,感染性疾患の発症を予防することや,重篤化することで生命を脅かすことになるのを避けるためである。
一方で現在種々の疾病を診断するには,医師の診察や検査機関による検査が必要である。しかし,検査結果が出るまで長い時間を要し,費用も高額となる。これは被験者にとって精神的・金銭的苦痛が伴う。加えて国内の少子高齢化の進展を受け,医療費負担額増加とともに,病床数確保・高度医療サービス提供が困難となりつつある。
前述した背景を受け,①在宅で,②高感度に,③安価に,④迅速に,疾病の診断が可能となるバイオセンサを開発することは,疾病発症・重篤化を防ぎ,我が国の医療費負担額軽減,高度医療サービス提供が可能になることが期待できる。
前述したバイオセンサを実現するために筆者らは,ナノメートルサイズの構造より観察される光学特性を利用したバイオセンサの開発を行っている。ナノメートルサイズの構造より観察される光学現象を応用する研究領域を「ナノフォトニクス」と呼び3)、バルクスケールの構造より観察される光学特性とは異なる新規特性が観察される。