Plane-to-Rayライトトランスポート計測に基づく皮下血管のリアルタイムイメージングシステム

図6 近距離の間接光による肌の内部状態の可視化。

最後に,適切な同期遅延時間を用いることで肌の内部状態の可視化ができることを図6に示す。撮影環境は(a)に示すように室内照明を付けたまま行った。通常,肌に照明を当てて観察すると,肌の表面で直接に反射する光が強すぎて内部の血管は僅かにしか見えない図6(b),(c),(d-1)。そこでこの直接光を避けるようにtd=700μs,te=500μsとして近距離の間接光のみを観測したところ,図6(b),(c),(d-2)に示すように肌の内部の血管がよく見えるようになった。本技術の応用として,子供や高齢者など,血管が細い患者への点滴における静脈路確保の補助などが挙げられる。

なお,本実験で用いた同期遅延時間と露光時間は経験的に定めており,血管の深さなどによっても最適な設定は異なると予想される。また,露光時間を長くすると近距離の間接光に加えて中・遠距離の間接光も同時に観測されるようになる。本実験では中・遠距離の間接光は皮膚の表面下で散乱してアンビエント光のように振る舞い,計測結果のSN比が低下する要因となる。そのため,本実験では露光時間は比較的短くとるかわりにカメラの開口を大きくとることで光量を確保したが,被写界深度が狭くなることが課題である。

6. まとめ

本稿では,様々な性質の間接光を選択的に取得して得られるPlane-to-Rayライトトランスポートの計測について述べ,実験を通していくつかのアプリケーションへの有効性を示した。今後は,医用画像,ロボットビジョン,自動運転など様々な分野での活用を目指して開発を続けていく予定である。

謝辞

本研究はJSPS科研費19H04138およびJST CREST(JPMJCR1764)の助成を受けた。

参考文献
1)S. Lin, Y. Li, S. B. Kang, X. Tong, and H. -Y. Shum, “Diffuse-specular separation and depth recovery from image sequences,” in European Conference on Computer Vision (ECCV). Springer, 2002, pp. 210-224.
2)W. -C. Ma, T. Hawkins, P. Peers, C. -F. Chabert, M. Weiss, and P. Debevec, “Rapid acquisition of specular and diffuse normal maps from polarized spherical gradient illumination,” in Proceedings of the 18th Eurographics Conference on Rendering Techniques. Eurographics Association, 2007, pp. 183-194.
3)S. K. Nayar, X. -S. Fang, and T. Boult, “Separation of reflection components using color and polarization,” International Journal of Computer Vision, vol. 21, no. 3, pp. 163-186, 1997.
4)S. K. Nayar, G. Krishnan, M. D. Grossberg, and R. Raskar, “Fast separation of direct and global components of a scene using high frequency illumination,” in ACM Transactions on Graphics (TOG), vol. 25, no. 3. ACM, 2006, pp. 935-944.
5)M. O’Toole, S. Achar, S. G. Narasimhan, and K. N. Kutulakos, “Homogeneous codes for energy-efficient illumination and imaging,” ACM Transactions on Graphics (TOG), vol. 34, no. 4, p. 35, 2015.
6)M. O’Toole, J. Mather, and K. N. Kutulakos, “3d shape and indirect appearance by structured light transport,” in IEEE Conference on Computer Vision and Pattern Recognition (CVPR), 2014, pp. 3246-3253.

7)H. Kubo, S. Jayasuriya, T. Iwaguchi, T. Funatomi, Y. Mukaigawa and S. G. Narasimhan, “Programmable Non-Epipolar Indirect Light Transport: Capture and Analysis,” in IEEE Transactions on Visualization and Computer Graphics. doi: 10.1109/TVCG.2019.
2946812.

■Real-time Blood Vessel Visualization System via Plane-to-Ray Light Transport Acquisition
■Hiroyuki Kubo

■Assistant Professor, Graduate School of Information Science, Nara Institute of Science and Technology (NAIST)

クボ ヒロユキ
所属:奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 情報科学領域 助教

(月刊OPTRONICS 2020年1月号)

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