2. 光音響イメージング
光音響イメージングの原理を図2に示す。生体にパルス光が入射されると,生体内で光吸収が起こる。吸収された光エネルギーは熱へと変わり,熱弾性効果により応力波が発生するので,生体外部に設置した超音波トランデューサを用いて光入射からの時間遅れを計測すると,超音波発生源深さを知ることができる。これが光音響イメージングの基本的な原理である。光は生体内部に入ると強く散乱され,深部において分解能が低下してしまうが,超音波は光と比較して散乱係数が約2−3桁小さいので,光のみを用いた計測と比較して,深部での高分解能を得ることが可能である。生体内では光の散乱と吸収のため,光学的に計測できる限界深さは1−2 mmと言われている7)。しかし,PAIは光学的限界深さを超える計測が可能で,実際の計測例では,深さ3 mmにおいて方位分解能45μmが実現されている8)。
PAI装置はいくつか種類があり,光音響顕微鏡(PAM),光音響トモグラフィ(PACT),光音響内視鏡などがある。PAMには分解能への寄与に応じて光学分解能PAM(OR-PAM)と音響分解能PAM(AR-PAM)がある。どちらも,光学的もしくは音響的に集光・収束させることで方位分解能を上げている。また,深さ分解能は超音波センサの検出周波数に依存している。PAMでは基本的には単一検出器を用いるため,3次元イメージングにはスキャンする必要があり,経時変化する試料を計測する場合には,計測間隔を短くするために高繰返し(kHz)光源が必要になる。OR-PAMの方位分解能はレーザー波長や対物レンズの開口数に依存し,波長の数分の1から数倍が実現されているが,生体内での光の散乱と吸収があるため,高空間分解能が得られるのは生体表面から深さ1−2 mmまでの範囲である9)。一方,計測深度と空間分解能は前述の通りトレードオフ関係にあるため,AR-PAMはOR-PAMと比較して一桁程度空間分解能は劣るが,光学的限界深度を超える計測が可能である10)。
PATはすでに医療分野で広く用いられている超音波診断装置と共通技術が多く,医療分野においてがんを中心に探索的な臨床研究が実施され,いくつかの企業で製品化が進められている。検出器にアレイ化された超音波トランデューサを用いることで,PAMでは必要であったメカニカルスキャンが不要になり,リアルタイム3次元イメージングが可能になる。据え置き型だけでなく,ハンドヘルド型PATも開発が進んでいる11〜13)。
PAI装置における主要コンポーネントは光源,検出器,再構成アルゴリズムである。光源としては一般的にはQスイッチNd:YAGレーザーもしくはQスイッチNd:YAGレーザー励起光パラメトリック発振器が用いられている。前述の通り,機能イメージングを実現するためには,目的対象物に合わせた波長を発振する必要があるため,波長可変性が必要である。また,高空間分解能を得るにはナノ秒パルスが必要であり,また,PAMにおいて生体等の経時変化の影響を除去するためには,高繰返しでのパルス発振とそれに追従した高速波長可変性が必要である。