6. おわりに
今回の研究成果から,トンボは他の生物とは異なる組成のワックスを分泌して紫外線反射や撥水性を獲得していることが明らかになった。これは生物の紫外線対策に関する新たな知見であるとともに,化学合成したワックスでも紫外線反射や撥水性が再現できたことから,応用面にも結び付く可能性が考えられた。紫外線反射剤としては,従来は酸化チタンや酸化亜鉛のような金属酸化物が使用されていたが,今回の物質はこれらとは全く組成が異なるものである7)(二橋ほか,2017)。興味深いことに,シオカラトンボはかつて漢方薬として利用されていたことが知られており8)(Corbet, 1999),もしかするとシオカラトンボの「紫外線反射ワックス」は,環境にやさしく安全な生物由来の新素材として今後利用できる日が来るかもしれない。
なお,今回紹介した研究成果は,JSPS科研費(JP26660276,JP18H02491,JP18H04893)による支援を受けて遂行したものである。
2)Futahashi R. (2016) Color vision and color formation in dragonflies. Current Opinion in Insect Science, 17: 32-39.
3)尾園暁・川島逸郎・二橋亮(2012)「ネイチャーガイド 日本のトンボ」532 pp. 文一総合出版.
4)尾園暁・川島逸郎・二橋亮(2019)「ヤゴ ハンドブック」 120 pp. 文一総合出版.
5)Futahashi R., Kurita R., Mano H., Fukatsu T. (2012) Redox alters yellow dragonflies into red. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 109(31): 12626-12631.
6)Futahashi R., Yamahama Y., Kawaguchi M., Mori N., Ishii D., Okude G., Hirai Y., Kawahara-Miki R., Yoshitake K., Yajima S., Hariyama T., Fukatsu T. (2019) Molecular basis of wax-based color change and UV reflection in dragonflies. eLife, 8: e43045.
7)二橋亮,川口研,針山孝彦,山濱由美,石井大佑,矢嶋俊介,三木玲香,森直樹.(2017)紫外線反射剤組成物及び撥水剤組成物.特願2017-100693.
8)Corbet PS. (1999) Dragonflies, Behavior and Ecology of Odonata. Cornell University Press.
■National Institute of Advanced Industrial Science and Technology, AIST
(月刊OPTRONICS 2019年7月号)
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