3. まとめ
炭素ドープg-C3N4の新規合成法を見出し,バンドギャップ2.7〜0 eVの範囲で自在に制御した材料の合成に成功した。わずかなドーパントの添加によって,バンドギャップは劇的に低下にした。また,価電子帯準位の変化はわずかであり,伝導帯準位が大きく変化していた。バンドギャップを自在に制御した炭素ドープg-C3N4を用いた光触媒及び電気化学評価について今後進めていく。
ここで課題を示しておきたい。炭素ドープg-C3N4の機能評価のためには(i)分散化および固定化,(ii)粒子間の接合,が課題となる。(i)光触媒能としての利用であれば,不均一触媒として懸濁液などでの評価も可能である。しかし,実用化に向けて基板への固定が必要であろう。また,電気化学触媒のためには,電極への固定が不可欠である。炭素ドープg-C3N4は不溶性分子であり,基板/電極へ均一に固定することは困難である。(ii)電気化学触媒としての利用を考えると炭素ドープg-C3N4粒子間の電子伝導が問題となる。
バンドギャップを0 eVとしても,物質間の接合ができていなければ導通が取れず電気化学触媒の機能は発現しない。実際に,バンドギャップ0 eVの炭素ドープg-C3N4粉末を用いてペレットを作製したが導通は確認できなかった。現在,(i)(ii)の課題解決に向けて,炭素ドープg-C3N4の分散化および基板/電極への固定手法の確立,粒子間接合法の開拓を進めている。これら詳細については,別の機会に報告したい。
最後の本手法の工業応用に向けた利点に言及する。本手法は,自在なバンドギャップ制御だけでなく,より安価な試薬を用いて,効率よくバンドギャップを制御できた。炭酸プロピレン500 gの価格は,バルビツール酸やトリアミノピリミジンの価格と比べて,1/7~1/4を程度である。また,バンドギャップを1.5 eVまで下げるためには,炭酸プロピレンでは,DCDAに対して4 mol%程度でよいが,バルビツール酸では40 mol%以上の添加が必要である。つまり,目的のバンドギャップに制御するためには,本手法ではドーパント種の価格が1/100程度になる。このけた違いに低コストな手法は,工業化を進めるうえで非常に重要なポイントである。
4. 謝辞
本研究の研究遂行は,当研究室卒業生の荒井みゆ氏,また現在の実験を進めている小野寺梨乃氏,菅原龍人氏,鈴木李紗氏の努力・協力があっての成果となります。この場を借りて感謝申し上げます。ありがとうございました。
2)IEA, CO2 emissions from fuel combustion.
3)S. Navalon, A. Dhakshinamoorthy et. al., Chem. Soc. Rev., 46, 4501 (2017).
4)C. Hu, D. Liu, Y. Xiao, L. Dai, Pro. Nat. Sci.: Mater. Int., 28, 121 (2018).
5)F. K. Kessler, Y. Zheng, D. Schwarz et. al., Nat. Rev. Mater., 2, 17030 (2017).
6)J. Zhang, X. Chen, K. Takanabe et. al., Angew. Chem. Int. Ed., 49, 441 (2010).
7)M. K. Bhunia, K. Yamauchi, K. Takanabe, Angew. Chem. Int. Ed., 53, 11001 (2004).
8)J. Zhang, G. Zhang, X. Chen et. al., Angew. Chem. Int. Ed., 51, 3183 (2012).
9)X. Fan, L. Zhang, R. Cheng M. Wang et. al., ACS Catal. 5, 5008 (2015).
10)X. Fan, L. Zhang, M. Wang et. al., Appl. Catal. B 182, 68 (2016).
11)G. Dong, K. Zhao, L. Zhang, Chem. Commun. 48, 6178 (2012).
12)F.-Y. Su, C.-Q. Xu, Y.-X. Yu, W.-D. Zhang, ChemCatChem 8, 3527 (2016).
13)特願2017-248186
■①Yamagata Univ., Faculty of Science, Assistant Professor ②Yamagata Univ., Faculty of Science, Professor
所属:山形大学 理学部 教授
(月刊OPTRONICS 2019年4月号)
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