2.2 著者らの新規合成法13)
著者らは,ジシアンジアミドに炭酸プロピレンを混合し,焼成することで劇的な黒色化が起こることを見出した。既存法では,大量のドーパントが必要であったが,本手法ではわずかなドーパントの添加によって,劇的な色変化を伴い,ドープ効率の高い手法であることが予測される。また,ドーパント分子の値段も,他の環状ドーパントより安く,コスト的なメリットも大きい。
得られたg-C3N4及び炭素ドープg-C3N4のX線回折(XRD)パターンを図3(a)に示した。g-C3N4の層間周期構造に帰属される27.5°付近のシグナルが観測された。また,面内周期構造に帰属される13°付近にシグナルが観測された。これら結果より,面内及び面内とも一定の周期構造を有した構造を示唆している。また,FT-IRスペクトルから,トリス-s-トリアジン由来のシグナルが1000〜1700 cm–1の間に複数観測された(図3(b))。走査型/透過型電子顕微鏡観察(SEM/TEM)より,これら材料の層構造の確認をしている。
ドーパントの増加に伴い,27.5°付近のシグナルが低角側にわずかにシフトした。これはg-C3N4中のNがCに置換し,グラフェン様の構造を有していることを示唆する。また,ドーパント50 mol%では大きく27°付近のシグナルがブロードニングし,相間の構造の秩序が乱れを示唆する。それとともに面内のシグナルが消失したことから,面内の構造も炭素ドープによって無秩序になる。FT-IRスペクトルからもトリス-s-トリアジン由来のシグナルが,ブロードニングしていることから,g-C3N4の構造が炭素ドープによって乱れていることを示している。炭素ドープg-C3N4のC/N比をSEM-EDS(エネルギー分散型X線分析)より求めた。ドーパントの増加に伴い,C/N比も増加し,Cドープが起こっていることを確認できた。
合成した炭素ドープg-C3N4の拡散反射スペクトルをKubelka-Munk関数を用い変換した(図4(a))。g-C3N4は300〜450 nmに吸収体を持ち,紫外可視光応答型の物質であることがわかる。一方炭素ドープg-C3N4では,ドーパントの増加に伴い,吸収端が長波長域にシフトし,ブロードな吸収体へと変化した。ドーパント50 mol%以上になると可視光全域を吸収するスペクトルとなり,黒色化した結果と一致する。
その後,Tauc plotから吸収端の接線を引き,バンドギャップを算出した(図4(b))。この時,
間接遷移型の電子移動が起こるとしてTauc plotを行った。g-C3N4のバンドギャップは2.7 eVと既報のバンドギャップとほぼ同等の数値を示した。炭素ドープg-C3N4では,ドーパントの増加に伴い,バンドギャップは減少した(図5)。ドーパント50 mol%では可視領域に均一に吸収帯を有し,Tauc plotで傾きを算出できなかった。このためBGは0 eVとした。
大気中光電子分光法を用い価電子帯準位を算出をしたところ,ドープ量0〜3 mol%の間でわずかに浅くなるが,その後ドーパント量を増加させてもほとんど変化はなかった(図6)。Tauc plotより求めたバンドギャップを用いて伝導帯準位を求めたところ,わずかなドーパントの添加によって急激に深くシフトし,その後もドーパントの増加ともに徐々に深くなっていった。これまでの報告では,価電子準位と伝導帯準位がそれぞれ近接しているという報告もあり,挙動が異なるのが興味深い。
光/電気触媒として利用する際には,目的物質の反応電位とg-C3N4の荷電子/伝導体準位が重要になる。特にn型半導体であるg-C3N4は伝導帯準位が電子供与に関わり,還元反応を促進する。ドーパントの添加量制御することで伝導帯を精密に制御可能であり,機能発現・解明に適した材料である。炭素ドープg-C3N4を水素発生光触媒として利用するためには,H+/H2反応準位よりも,伝導帯準位がわずかに浅い,1〜3 mol%炭酸プロピレンドープで作製した炭素ドープg-C3N4が有効と考えられる。この時,過電圧を考慮し,助触媒の担持が有効だろう。