ボトムゲート・ボトムコンタクト型のトランジスタ特性は,トップコンタクト型のトランジスタと同様にp-チャネルで動作し,アニール後の移動度は11.2 cm2/Vs,閾値電圧も–3 Vと優れた特性を示した(図6(a))。また,–50 Vまでの電圧印加に対してもヒステリシスはなく繰り返し動作においてもトランジスタ特性の劣化は見られない7)。この材料の信頼性を調べるために5つの基板を用いて結晶膜を作製し,製膜プロセスの再現性と,基板上に作製した複数のデバイスの移動度の分散,デバイスの耐熱性を評価した。その結果,5枚の薄膜ともに平均移動度11〜12 cm2/Vs,標準偏差を平均移動度で割ったばらつきが10%以下と,優れたプロセス安定性と均一性が実現できていることが確認される(図6(b))7)。
このような良好なトランジスタ特性が表れる要因として,均一かつ平坦性に優れた多結晶薄膜を用いたことによる効果が大きい。一見,均一に思える単結晶膜でも,それを用いたトランジスタアレイでは,移動度の分散幅が明らかに大きいことが報告されている8〜10)。これは,単結晶膜の電極に対する結晶軸の方向の制御の困難さや,一部,結晶粒界を有する箇所が発生するために,単結晶膜といえども素子特性のばらつきが発生しているものと推測される。これに対して,多結晶薄膜ではばらつきが平均化され,素子間のばらつきの小さなトランジスタが作製できているものと考えられる。
薄膜の耐熱性を調べるために,作製したトランジスタを各温度で5分間の加熱を行い,その後室温まで冷却し,室温での特性を評価し,熱ストレスの依存性を調べた。通常のジアルキルのBTBT誘導体10-BTBT-10においては,100℃を超えると,薄膜が破壊されトランジスタが動作しなくなるのに対し,Ph-BTBT-10においては140℃までは結晶状態を保持するため,移動度の減少は全く見られず10 cm2/Vsの高い移動度を維持する。さらに200℃まで加熱しても,SmE相を示すために薄膜構造は維持され,素子は破壊されることはなく,移動度も3 cm2/Vsの移動度を保持していており,実用的にも十分な熱安定を示す(図6(c))7)。
4. おわりに
実用的なプリンテッドエレクトロニクス用の有機トランジスタ材料として,液晶性を有する有機半導体材料の特徴と,その代表的な有機トランジスタ材料であるPh-BTBT-10とそのトランジスタ特性を紹介した。Ph-BTBT-10では液晶性を活用することにより,分子配向制御性,平坦・均一な結晶薄膜の製膜性,耐熱性などの実用に耐えるプロセス適性を実現でき,多結晶薄膜にも関わらず移動度10 cm2/Vsを超す高い移動度を実現できることを示した。このように,液晶性有機半導体は高品質な有機トランジスタ材料としてフレキシブルディスプレーやフレキシブル電子回路の薄膜トランジスタに大きく貢献するものと期待される。
2)H. Iino and J. Hanna, Jpn. J. Appl. Phys., 45, L867 (2006)
3)H. Iino and J. Hanna, J. Appl. Phys., 109, 074505 (2011)
4)H. Iino and J. Hanna, Mol. Cryst. Liq. Cryst., 510, 1393 (2009)
5)H. Iino, T. Kobori, and J. Hanna, Jpn. J. Appl. Phsy., 51, 11PD02 (2012)
6)H. Iino, T. Kobori, and J. Hanna, J. Non Cryst. Solid., 358, 2516 (2012)
7)H. Iino, T. Usui and J. Hanna, Nature Commun., 6, 6828 (2015)
8)T. Uemura, Y. Hirose, M. Uno, K. Takimiya, and J. Takeya, Appl. Phys. Exp., 2, 111501 (2009)
9)H. Minemawari, T. Yamada, H. Matui, J. Tsutsumi, S. Haas, R. Chiba, R. Kumai, and T. Hasegawa, Nature, 475, 364 (2011)
10)T. Minari, C. Liu, M. Kano, and K. Tukagoshi, Adv. Mater., 24, 299 (2012)
■Associate Professor, Imaging Science and Engineering Research Center, Tokyo Institute of Technology
所属:東京工業大学 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所 准教授
(月刊OPTRONICS 2019年1月号)
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