多層膜型フォトニック結晶による分光偏光同時イメージング

3. 分光偏光情報の復元

本研究の分光偏光フィルタアレイは,モノクロイメージャの表面に接着することで,ワンショット分光偏光カメラを容易に実現できる。このカメラで撮影されたグレイスケール画像は,前述した通り画素ごとに様々な波長帯および偏光成分が混在した値となるため,入射光の分光偏光成分の復元処理,つまりデモザイクが必要となる。そのため,撮影過程を線形モデルと仮定し,その逆問題を解くことで,分光偏光画像を推定するデモザイク法を紹介する。想定する線形モデルの概略を図4に示す。

図4 分光偏光フィルタアレイ搭載カメラによる撮影および画像復元。
図4 分光偏光フィルタアレイ搭載カメラによる撮影および画像復元。

イメージャの観測画素値gx, yは,イメージャの感度tλ,フィルタの0度感度$$\left[u\right]^{0}_{x, y, \lambda}$$および90度感度$$\left[u\right]^{90}_{x, y, \lambda}$$,格子構造の角度θx, y,および入射光のストークスパラメータ$$\boldsymbol{s}_{x, y, \lambda}=\left[s_{0} s_{1} s_{2}\right]^{T}_{x, y, \lambda}$$によって式⑴のように定まる。

式⑴ ⑴

このモデルは画素ごとに独立であると仮定し,xy,λの三次元要素を行方向の一次元に展開する。

式⑵ ⑵

ここでは,空間方向の画素サイズを(X, Y),測定バンド数をLとし,$${\textbf{g}}\in \mathbb{R}^{XY}$$はgx, yyx 優先で行方向に展開したベクトル,$$\boldsymbol{T}\in \mathbb{R}^{XY\times XYL}$$は$$1/2\left[\boldsymbol{t}_{\lambda_{0}} {\textbf{t}}_{\lambda_{1}} … {\textbf{t}}_{\lambda_{L-1}}\right]$$をyx 優先で対角方向に展開した行列,$$\boldsymbol{M}\in \mathbb{R}^{XYL\times3XYL}$$はmx, y, λをλ→yx優先で対角方向に展開した行列,$$\boldsymbol{s}\in \mathbb{R}^{3XYL}$$はsx, y, λをλ→yx優先で行方向に展開したベクトルである。さらに,$$\boldsymbol{f}_{x, y, \lambda}=\left[f_{0} f_{45} f_{90}\right]^{T}_{x, y, \lambda}$$を0,45,90度偏光における分光画像とし,$$\boldsymbol{f}\in \mathbb{R}^{3XYL}$$はfx, y, λをλ→yx優先で行方向に展開したベクトル,$$\boldsymbol{P}\in \mathbb{R}^{3XLY\times 3XYL}$$はストークスパラメータ算出行列を対角成分にもつ行列とする。式⑵のHは既知の情報であるため,デモザイクはワンショット撮影画像gから入射光fを求める問題となる。一例として,復元画像の誤差二乗を最小化する制約のもとで,式⑶のWiener推定によってデモザイクを行う方法が考えられる。

式⑶ ⑶

ここで$$\boldsymbol{R}_{f}\in \mathbb{R}^{3XLY\times 3XYL}$$はfの自己相関行列であり,1次のマルコフモデルを想定する7)。式⑶は一回の行列積でデモザイクが可能となるため,ワンショット撮影と共にリアルタイム処理に有利な復元方法である。また,式⑵および式⑶におけるfg,$$\hat{\boldsymbol{f}}$$は同じ画素サイズ(X, Y)を想定しているが,計算機上のメモリの制約や復元精度の向上を考慮し,それぞれ異なるサイズを適用することも可能である8)

推定された分光偏光画像$$\hat{\boldsymbol{f}}$$からは,特定の波長かつ特定の偏光の選択的な可視化だけでなく,0度偏光と90度偏光の和によって無偏光な分光画像,さらにその分光画像からRGB画像も求めることができる。よって,分光偏光フィルタアレイ搭載カメラは,既存のRGBカメラ,分光カメラ,偏光カメラの機能を1台で併せ持つ特徴がある。

4. 実験

成膜したフィルタアレイをモノクロカメラ(ARTCAM-150P5-BW-WOM,ARTRAY)にUV硬化にて接着し,撮影実験を行った。成膜範囲は100×100 pixel,一画素あたりの画素サイズは4,650 nm角,復元波長は420から720 nmの10 nm間隔(31波長)を想定している。撮影実験では,ISO12233テストチャートの手前に携帯端末(Nexus5,Google)を設置し,試作カメラにて撮影を行った。携帯端末の液晶画面からは0度偏光のみが透過されることを事前に確認しており,撮影画角内の液晶画面には,白色の検索バーに加えシアンと赤のパターンが含まれる画像を表示した状態で撮影を行った。

図5に試作カメラにて撮影したグレイスケール画像(a)および撮影画像から復元された各種画像(b)−(h)を示す。これらの復元画像は,全て図5(a)の一枚の画像から復元されている。まず注目したいのは,提案法は可視波長域全体のスペクトルを画素ごとに復元できるため,図5(b)のようにRGB画像を再現できることである。ある特定の分光や偏光を可視化する際に,同一位置のRGB画像によって撮影位置や色合いの目視確認が可能となれば,産業応用上の大きなメリットとなることが予想される。

図5 撮影画像および復元結果(いずれも100×100 pixel)。
図5 撮影画像および復元結果(いずれも100×100 pixel)。

次に,図5(c),(e),(g)を見ると,波長の違いによる液晶画面の明るさの違いが見て取れる。さらに,図5(d),(f),(g)から,偏光90度の光が液晶において遮断されていることがわかる。これらの結果から,提案フィルタアレイを搭載したカメラは,ワンショットで様々な分光および偏光情報を撮影・復元し,従来のRGB,分光,偏光カメラの役割を1台で実現できる可能性がある。

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