4. 10 GSample/s実証実験
提案する光A/D変換の有効性を検証するために実証実験を行った11)。その実験構成を図3に示す。まず,波長1530 nmのモード同期半導体レーザ(MLLD:Mode-Locked Laser-Diode)から出力された繰り返し周波数10 GHzのパルス列をLiNb03変調器(LNM)に入力し,パルスパタン発生器(PPG:Pulse Pattern Generator)と同期したシグナル・ジェネレータ(SG)で生成された10 GHz正弦波で変調を行い,光アナログ信号を光標本化したことを想定した10 GSample/sの光サンプリングパルス列を生成した。
この信号光はエルビウム添加光ファイバ増幅器(EDFA:Erbium-Doped Fiber Amplifier)で増幅後,光カプラ(OC:Optical Coupler)でプローブ光と合波される。プローブ光は波長1559 nmの外部共振型半導体レーザ(ECL:External Cavity LD)で生成され,出力パワーは光可変減衰器(VOA:Variable Optical Attenuator)で調整し,OCで信号光と合波されている。図3(a)のように信号光とプローブ光は合波後,量子ドット半導体光増幅器(QD-SOA)に入力される。
ここで,SOAではなく,QD-SOAを利用した理由は,従来のSOAと比較して,QD-SOAは高速な利得回復時間を有しており,高速なサンプリング速度での実証実験には有利なため,本実験でも使用した。このQD-SOAはこれまでにも伝送速度320 Gbit/sでの光信号処理実証実験に使用されている12〜15)。QD-SOA内では,図3(b)に示すようにサンプリングパルスのピークパワーに対応した大きさのレッドチャープがプローブ光に発生する。プローブ光は増幅後,波長可変型のWSに入力される。図2では並列に複数段のWSを配置していたが,本実験では1台のWSの透過波長(フィルタ短波長側の周波数(RSFF))をシフトさせている。
実際には図3(c)に示すようにWSのRSFFを変化させ,光量子化の性能評価を行っている。実験に使用したWSの透過スペクトルの例を図3(d)に示す。理想的にはより急峻なロールオフを有する光フィルタが必要であるが,使用したWSにおいても十分な光量子化性能の実現が可能である。RSFFに応じて抽出したプローブ光のレッドチャープ成分は増幅後,光スペクトルアナライザ(OSA:Optical Spectrum Analyzer)と,フォトダイオード(PD:Photo-Diode)で光電変換された電気信号波形を帯域50 GHzのサンプリングオシロスコープ(OSC:Oscilloscope)でパルスのピークパワーレベルと波形の評価を行っている。
図4にOSAで観測されたレッドチャープ成分の光スペクトルを示す。フィルタをシフトされる毎にスペクトル成分は低周波数側にスライドしていくのが確認出来る。一方,スペクトル成分はシフトしても10 GHz間隔に立つコム成分は共通して存在しているのがわかる。
光量子化性能の評価を行うために,入力したサンプリングパルス列を規格化し,出力パルスのピークパワーが設定した閾値を越えた(“0”から“1”となった)ときのRSFFの変化を図5に示す。閾値については過去の研究を参考に3つの値を任意に設定し,比較評価を行っている。図より,入力パルスのピークパワーが大きくなるにつれて,必要となるRSFFも大きくなっているのがわかる。ここで,閾値を規格化されたパルスのピークパワーの0.16と設定したときに最大8レベルのステップが得られることが確認され,8レベルの光量子化が行えることが示された。さらに最新の研究成果においては,15レベルの光量子化の実証実験にも成功している16)。
実際のA/D変換としても有用性を示すため,積分非線形誤差(INL:Integral NonLinearity)と微分非線形誤差(DNL:Differential NonLinearity)による性能評価も行った。前者は理想の光量子化性能における各ステップの中点を結んだ際の各量子化レベルにおけるパワー差を表し,後者は理想的なステップ幅に対する実測のステップ幅のパワー差を意味する。INLとDNLによる光量子化特性の性能評価を図6に示す。この評価において,±1 LSB(最低有効ビット数,LSB:Least Significant Bit)以下に抑えることが出来れば,ミッシングコードを発生せずにA/D変換を行えることになる。図より,INLは最大+0.79 LSB,DNLは最大+0.59 LSBとなり,全てのステップで±1を下回っていることから,提案技術の有効性を示すことを実証した。