分子の自己組織化を用いた機能性色素の創製と発光性センサー材料の開発

三成分結晶は2-TPFB複合体が構築する空隙に様々なGuestを包接し発光する機能性色素であった。そこで著者らは,2-TPFB複合体の粉末は,BTXや有機小分子の蒸気を吸着することによっても三成分結晶を生成するのではないか?と考えた。そこで有機化合物の蒸気の種類に応答し,発光強度や発光色を変化する有機化合物センサーへの応用を検討した9)。2-TPFB複合体の粉末は,ベンゼンを含む三成分結晶(2-TPFB・ベンゼン)を150度で4時間加熱することでGuestであるベンゼンを除去することにより得た。2-TPFB複合体の粉末に対して,ベンゼン,トルエン,メタキシレン,1, 3, 5-トリメチルベンゼン等の有機小分子(Guest)の蒸気を1晩曝露させると,(i)Guestを取り込み,(ii)結晶性が回復するとともに,(iii)Guestの種類に応じた発光色の変化が観測された(図6)。2-TPFB複合体の粉末がGuestの蒸気を吸着して取り込み,三成分結晶を形成したためである。2-TPFB複合体の発光は微弱であるが,トルエン,ベンゼン,メタキシレンの蒸気に応答して76倍,46倍,37倍もの発光強度の増大が観測された。

図6 自己組織化を用いた発光性有機化合物センサーの概念図。
図6 自己組織化を用いた発光性有機化合物センサーの概念図。

一方でメタノール,エタノール,アセトン,ジクロロメタン,クロロホルム,ヘキサン,シクロヘキサンの蒸気に対しては,分子の吸着は観測されたものの発光強度の増大はほとんど観測されなかった。すなわち2-TPFB複合体の粉末は有機小分子を吸着する多孔性材料であり,かつ芳香族炭化水素に対しては,CT相互作用に起因して発光強度の増大を示すTurn-ON型の有機化合物センサーとして機能することを示している。

5. まとめ

包接現象や分子間相互作用の適切な設計による二成分,三成分の分子集積化法に関して述べた。はじめに紫外光照射下で可視光発光を示す機能性色素の創製法に関して紹介し,適切な分子の組合せによる多色発光材料の創製について述べた。続いて分子間のCT相互作用によって発光する性質を活かして,圧力センサー(ピエゾクロミズム)および有機化合物センサー(ベイポクロミズム)への応用例を紹介した。本研究は,煩雑な有機合成を必要としない,既存の分子(煩雑な合成を必要としない分子)の組合せによる機能性色素の開発とセンサー材料への応用であり,今後の展開が期待される。

参考文献
1)中澄博行 編,機能性色素の科学 色素の基本から合成・反応,実際の応用まで,化学同人 (2013).
2)D. Yan, D. G. Evans, Mater. Horiz. 1, (2014), 46.
3)G. R. Desiraju, Angew. Chem. Int. Ed. 46, (2007), 8342.
4)R. Bishop, Chem. Soc. Rev. 34, (1996), 2311.
5)竹本喜一ほか,包接化合物−基礎から未来技術へ−, 東京化学同人 (1989).
6)T. Ono, Y. Tsukiyama, A. Taema, Y. Hisaeda, Chem. Lett. 46, (2017), 801.
7)T. Ono, M. Sugimoto, Y. Hisaeda, J. Am. Chem. Soc. 137, (2015), 9519.
8)T. Ono, Y. Tsukiyama, A. Taema, Y. Hisaeda et al. ChemPhotoChem 2, (2018), 416.

9)S. Hatanaka, T. Ono, Y. Hisaeda, Chem. Eur. J., 22, 10346, (2016).

■Development of functional dyes and optical sensors in molecular self-assembly systems
■Toshikazu Ono

■Assistant Professor, Department of Chemistry and Biochemistry, Graduate School of Engineering, Center for Molecular Systems (CMS), Kyushu University

オノ トシカズ

所属:九州大学 大学院工学研究院 応用化学部門 助教

(月刊OPTRONICS 2018年7月号)

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