4.2.2 光コムと波長/空間次元変換によるスキャンレス化
前述の波長/空間次元変換を用いた手法にさらに光コムを組み込むことで,さらなるスキャンレス共焦点光学顕微鏡の高機能化が実現できる。ライン共焦点光学系と波長/空間次元変換によるスキャレス化では,共焦点スリットを採用しているために,共焦点スリットと偏光な空間軸に対して空間分解能がやや悪いといった問題点があった。もし,2次元空間全てを波長にエンコードすることができれば,共焦点ピンホールを採用することができ,面内分解能についても従来の共焦点顕微鏡と同等の性能を実現しつつ,ワンショットで共焦点イメージングを実現できると考えられる。また,光コムが持つ光強度・位相計測能を付与することができれば,さらなる高機能化が期待できる。
このように,試料面の空間情報を全て波長でエンコードした共焦点イメージングを実現した手法が,光コムを用いたスキャンレス共焦点光学顕微鏡である7, 8)。試料面の空間情報を全て波長でエンコードする際,波長に対して空間情報を1対1対応させるため,エンコードできる空間ピクセル数は波長分解能と波長幅の比である波長ダイナミックレンジで決まる。波長ダイナミックレンジを広げるためには,計測の波長分解能を上げるか,広い波長帯域を有する光源を用いることになるが,波長帯域を広げた場合,分光特性を有する物質(即ち,色を持つ物質)に対して応用が制限される。そのため,高い波長分解能を有する分光法を用いることが肝要であると考えられる。光コムの各モードを空間に対応することで,非常に高い波長分解能(10–4〜10–5 nm)を実現することができる。
光コムと波長/空間次元変換を用いたスキャンレンス共焦点光学顕微鏡の概念図を図7に示す。各光コムモードを空間の各点に対応させるため,2次元波長分散素子を用いた(図7では,VIPAと呼ばれる波長多重化された波長分散素子と回折格子)。2次元波長分散された光コムは試料に照射される。試料で反射や散乱された光コムは,同光路を逆伝播することで再び空間的に重ね合わされる。空間的に重ね合わされた光コムは共焦点ピンホールを通ることで,共焦点性が付与され3次元空間分解能,迷光除去能が得られる。試料空間情報を反映した各コムモードは,繰り返し周波数が僅かに異なるもう1台の光コムと干渉させることで,その干渉信号から各コムモードの強度および位相が得られる。得られた各コムモードの情報を,コンピュータ上で2次元的に再配置することで,共焦点強度・位相画像を得ることができる。
図8に光コムを用いたスキャンレンス共焦点光学顕微鏡で得られた共焦点強度画像および位相画像を示す。試料にはガラス上にクロム膜が蒸着されたテストチャートを用いた。ガラスとクロム膜の反射率の差により強度イメージコントラストが得られていることがわかる。また,ガラスとクロム膜に100 nm程度の段差が生じていることから,位相イメージコントラストが得られている。重要な点は,光コムを用いた手法では共焦点性を有しているため,焦点位置から反射された光のみの位相を評価でき,また不要な迷光の影響を受けないといった特徴がある。