4. 顕微鏡下での計測への応用〜光コム顕微鏡〜
4.1 光強度と位相の同時計測
光学顕微鏡は,医学・生物学を中心として細胞や組織の解析に必要不可欠なツールとして広く普及している。従来は光の強度,位相,偏光といった情報は個別に議論され,そこから試料の形状・機能の解析を行ってきた。しかし,これら光の強度,位相,偏光,さらには波長を同時に計測することで,光と試料のより詳細な相互作用解析や,光学顕微鏡の高機能化が期待できる。
既に述べたとおり,光コムを用いると光強度,位相,偏光といった情報を高速に取得することができる。これを顕微鏡下の計測へ応用することで,光の強度,位相,偏光,波長を同時に議論可能な新たな光学顕微鏡(光コム顕微鏡)が実現できる。図4にレーザー走査型の光コム顕微鏡の概念図を示す。光コム1を,対物レンズによって試料に照射し,反射・散乱等された光コム1を光コム2と空間的に重ね合わせ,干渉信号を得る。得られた干渉信号をフーリエ変換することで,光強度と位相の情報を得る。本手法を直交空間2成分に対して行うと,偏光の計測へも応用可能である。また,共焦点光学系の採用により,3次元空間分解能をもたせることも可能である。
開発したレーザー走査型光コム顕微鏡を用いてテストチャートを測定した例を図5に示す。レーザー走査光学系により,空間的マップを得ることで,試料の形状に応じた光強度・位相イメージが得られていることがわかる。本手法では,光強度イメージでは試料の反射率,透過率,散乱係数などによりコントラストが得られる。一方,位相イメージでは微細構造や屈折率によってコントラストが得られる。図5の例では,テストチャートに蒸着されたクロム膜と基板ガラスの反射率の差により強度コントラストが得られ,クロム膜と基板ガラスの微細な段差によって位相コントラストが得られている。
4.2 共焦点光学顕微鏡のスキャンレス化
4.2.1 ライン共焦点光学系と波長/空間次元変換によるスキャンレス化
レーザー走査型光学顕微鏡では,共焦点ピンホールを採用した共焦点光学系を付加することで,3次元空間分解能や迷光除去能が得られるといった特徴を付加することができる。これは,試料上の焦点と共焦点ピンホールを1体1対応させることで,対応していない位置からの光を空間的にフィルタリングすることで実現される。共焦点光学系を採用した場合,イメージを得るためには,従来はレーザービーム,あるいは試料の機械的走査が必須であった。しかし,より堅牢で高速なイメージングの実現のためには,レーザーの走査を行わずに共焦点イメージが得られる方が好適である。
我々は共焦点効果を付与しながらも,機械的走査機構を省略することができるスキャンレス共焦点光学顕微鏡の開発を行ってきた6)。本手法では,試料面の2次元空間情報の一方の空間軸を波長でエンコード(波長/空間次元変換)し,他方をライン共焦点イメージングで計測することで,機械的走査のスキャンレス化を実現する。
スキャンレス共焦点顕微鏡の概念図を図6に示す。本手法では,ライン状に集光されたスポットと共焦点スリットを結像関係で対応させることで共焦点性を得る。これによりライン集光軸の1軸のスキャンレス化が可能となる。さらに,他方の軸を回折格子によって波長分散させ空間的に分散(波長/空間次元変換)させることで,試料上に2次元的に分布したレインボー焦点を形成することができる。試料上からの光は,同様の光路を逆伝播するため,再び回折格子により元の光路に戻される(回折格子によるデスキャン)。
このデスキャン機構により,各波長が形成した試料上の焦点からの光は,共焦点スリットを通ることが可能となる。共焦点スリットを通った光を再び分光器等で波長/空間次元変換することで,イメージを得ることができる。以上のように,ライン共焦点光学系と波長/空間次元変換を同時に実現すると,2次元的なスキャン機構を必要としない共焦点光学顕微鏡が実現できる。本手法を用いることで,3次元的形状計測や細胞構造の計測などが可能であることを実証している6)。