3. 偏光計測への応用〜光コム分光ポラリメトリー・エリプソメトリー〜
光を試料へ入射すると,試料の異方的特性や複素屈折率などにより入射偏光が変化することが知られている。この偏光の変化を詳細に解析することで,試料の異方性などの特性を明らかにすることができる(ポラリメトリー)。また,均質な媒質であっても,光の透過・反射率の偏光依存性を活用することで,薄膜の厚さをナノメートルオーダーで決定したり,試料の表面物性などを明らかにしたりすることができる(エリプソメトリー)。これら,ポラリメトリーやエリプソメトリーでは,試料入射前後の偏光変化を精密に計測する必要がある。
偏光は,直交空間2成分の電磁波の強度と位相の干渉として表現することができる。即ち,直交空間2成分の光の強度と位相を同時に計測することができれば,偏光計測を実現できるはずである。しかし,光の周波数は数百テラヘルツという非常に高周波であるため,直接エレクトロニクスデバイスで計測することは困難であった。そのため,従来は回転型偏光子や電気的偏光変調素子(光弾性変調器など)などを用いることで,偏光変化を光の強度に変換することで計測を行っていた。しかし,回転動作による機械的ノイズや,波長依存性の高い電気的偏光変調素子によって広い波長帯域を同時に計測できないといった問題点が存在した。
光コムを用いると,光の強度と位相を同時に,かつ非常に高速に計測可能である(図2)。前述の通り,光コムは超短パルスの繰り返し周波数と,パルスのキャリアとエンベロープのオフセットを精密に制御されている。そのため,繰り返し周波数が僅かに異なる2台の光コム光源に対しても,一方の光コム光源を他方の光コム光源に位相同期しながら追従可能である4)。この2台の光コム光源の時間的な干渉波形を詳細に解析(フーリエ変換など)すると,光コムが持つ強度と位相の情報を読み出すことが可能となる。
この時,機械的操作等は一切必要としない。即ち,2台の光コムの干渉を直交空間2成分で観察することで,機械的操作を一切必要といない偏光計測が可能となる5)。また,光コムは広い波長帯域も有していることから分光測定も同時に実施可能である。本手法を,光コム分光ポラリメトリー(エリプソメトリー),あるいは2台の光コム光源を用いることからデュアルコム分光ポラリメトリー(エリプソメトリー)と呼んでいる。
光コム分光エリプソメトリーを用いた薄膜計測への応用例を図3に示す。エリプソメトリーでは,試料に入射させる光のp偏光成分とs偏光成分の強度比で定義されるΨと位相差で定義される∆というエリプソメトリックパラメーターを用いることが一般的である。本手法でも,エリプソメトリックパラメーターを推定することで,Si基板上の膜厚0〜900 nmのSiO2薄膜を平均二乗誤差38.4 nm,繰り返し測定精度3.3 nmで計測可能であった。従来法との大きな違いは,エリプソメトリックパラメーターを得るために,一切の機械的動作を必要としない点である。
また,今回は詳細を述べなかったが,本手法では高い波長分解能(1.2×10–5 nm)や高速な測定(最大でミリ秒オーダーでのエリプソメトリックパラメーター測定)も同時に実現可能であることがわかっている。本手法を応用することで,機能性薄膜や光学材料の高精度な特性評価,高速性を活かした動的特性評価など幅広い応用が期待される。