製造現場での高分解能観察のための構造化照明顕微鏡

3. 低コヒーレンス干渉による構造化照明

構造化照明顕微法を非蛍光観察に応用するにあたってスペックルノイズの影響を調査した。ここでは,レーザ(DPSS,波長532 nm,スペクトル幅0.1 nm)およびSLD(中心波長669 nm,スペクトル幅7 nm)の二光束干渉をそれぞれ構造化照明として用いた場合のシリコンドット(0.2μm径)の光学顕微鏡観察結果を比較する。低コヒーレント光源として用いたSLDのコヒーレント長の理論値は32μmと短く,二光束干渉させるためには綿密な光路長調整を要するため,マイケルソン型の干渉光学系を採用した。

図3 観察試料パターンに依存したスペックルノイズ(左:レーザ光源,右:SLD光源)
図3 観察試料パターンに依存したスペックルノイズ
(左:レーザ光源,右:SLD光源)

図3に観察試料パターンに依存して発生するスペックルノイズの例を強調表示する。ドット中心に対して同心円状のスペックルノイズが確認できるが,SLDの場合に影響が小さいことが分かった。なお,レーザの場合のノイズ強度は,画像における最大強度の10%を超えており,平均化効果によっても抑制が困難なため,高分解能化のための再構成結果においてアーチファクトを発生させる。

図4 SLDの二光束干渉による構造化照明(左:一部拡大,右:視野全体)
図4 SLDの二光束干渉による構造化照明
(左:一部拡大,右:視野全体)

つづいて,構造化照明の下,シリコンドット(0.2μm径)が一様に配置されたパターンを光学顕微鏡(対物レンズNA0.55)で暗視野観察した結果を図4に示す。取得画像およびの試料ステージ走査の結果を解析したところ,0.470μmのピッチを有する構造化照明の生成を確認した。なお,二光束干渉の入射角45°から計算されるピッチは0.473μmであり,計算結果は理論値と良く一致した。

図5 生成した構造化照明のラインプロファイル(左:視野全体,右:一部拡大)
図5 生成した構造化照明のラインプロファイル
(左:視野全体,右:一部拡大)

右図に示したカラー画像は顕微鏡視野全体の取得画像である。中央部分に確認できるモアレ縞は構造化照明と観察試料パターンによるものであり,構造化照明の生成領域を示している。次に,視野全体画像における構造化照明のラインプロファイルを図5に示す。光路差ゼロ位置において最大のコントラストを有する低コヒーレンス干渉の挙動が確認できた。ラインプロファイルから確認できる構造化照明生成領域はおよそ30μmであり,用いたSLD光源のコヒーレント長の理論値32μmと良く一致した。

4. 構造化照明の位相検出機構

図6 照明位相の検出機構を備えた低コヒーレンス干渉型構造化照明顕微鏡(全体上面図)
図6 照明位相の検出機構を備えた低コヒーレンス干渉型構造化照明顕微鏡
(全体上面図)

構造化照明顕微法の製造現場での利用にあたって,想定される振動の下でも高分解能化を実現するために,低コヒーレンス干渉に基づいた位相検出機構を導入した。図6に光学系の上面図,図7に暗視野顕微鏡の側面図を示す。赤外SLD光源が一般的であるが,検証の容易さの観点から,可視SLD(中心波長669 nm,スペクトル幅7 nm)を使用した。シングルモードファイバとコリメートレンズを通過した光は,ハーフミラーによって振幅分割され,マイケルソン干渉計(図6下部)により二光束干渉させることで観察試料上に構造化照明を生成する。一方のアームには低コヒーレンス干渉のための光路長調整機構,他方のアームには,ビームパワーを揃えて干渉コントラストを向上させるために別途ハーフミラーを配置した。

図7 照明位相の検出機構を備えた低コヒーレンス干渉型構造化照明顕微鏡(暗視野顕微鏡部側面図)
図7 照明位相の検出機構を備えた低コヒーレンス干渉型構造化照明顕微鏡
(暗視野顕微鏡部側面図)

中央部の顕微鏡光学系では,試料からの散乱光を暗視野観察する。(図7)観察試料を正反射した光は,もう一つのマイケルソン干渉計(図6上部)によって低コヒーレンス干渉し,検出器で干渉縞として観測される。この干渉信号から構造化照明の位相を検出する。なお,位相検出機構の導入により,構造化照明の高精度位置決め制御が不要となったため,従来使用していたピエゾステージを安価なステッピングモータステージに置換することができた。

同じカテゴリの連載記事

  • 竹のチカラで紫外線による健康被害を防ぐ 鹿児島大学 加治屋勝子 2024年12月10日
  • 光周波数コムを用いた物体の運動に関する超精密計測と校正法 東北大学 松隈 啓 2024年11月10日
  • こすると発光色が変わる有機結晶の合理的創製 横浜国立大学 伊藤 傑 2024年10月10日
  • 光ウェアラブルセンサによる局所筋血流と酸素消費の非侵襲同時計測 明治大学 小野弓絵 2024年09月10日
  • 関心領域のみをすばやく分子分析するラマン分光技術 大阪大学 熊本康昭 2024年08月12日
  • 熱画像解析による土壌有機物量計測技術の開発 大阪工業大学 加賀田翔 2024年07月10日
  • 組織深部を可視化する腹腔鏡用近赤外分光イメージングデバイスの開発 (国研)産業技術総合研究所 髙松利寛 2024年06月10日
  • 8の字型構造の活用による高効率円偏光発光を示す第3世代有機EL材料の開発 名古屋大学 福井識人 2024年05月07日