基板としてフッ素ドープ酸化スズ(FTO)が300 nmコートされたガラス上に,チタンジイソプロポキシドビス(アセチルアセトナート)を原料としてスピンコート法で40 nmの緻密TiO2 層を形成したものを用いた。
1.2 mol/L(M)PbI2–(CsI)x のDMF:TBPの体積比9:1の混合溶液を紫外−オゾン洗浄したGlass/FTO/TiO2基板上にスピコートし70℃で10分アニールしたPbI2–(CsI)x 薄膜の走査型電子顕微鏡(SEM)像が図5である。x により空孔のサイズと密度に違いはあるものの,全てのxにおいて多数の空孔を有する多孔性の薄膜であった。
この多孔性PbI2–(CsI)x 薄膜に470 mMのFAI 2-プロパノール溶液を滴下して3000 rpm,20秒でスピンコートし反応させた後,表面に残留した過剰のFAIを2-プロパノールで洗い流し,150℃,10分アニールしたペロブスカイト薄膜の表面SEM像を図6に示す。太陽電池は縦方向に動作するデバイスなので,空孔は短絡の原因となり好ましくないが,FAI溶液との反応による体積膨張によりPbI2–(CsI)x 薄膜に存在した空孔が埋まり,緻密な多結晶ペロブスカイト薄膜が得られた。
図7にFA1–x Csx PbI3薄膜のX線回折パターンを示す。x = 0では14°付近が主ピークのα体のピークの他に,12.6°に未反応のPbI2のピークが僅かに見られ,また11.8°にδ体が観測されるが,δ体の存在は太陽電池特性には好ましくない影響を示す。x = 0.1,0.2ではδ体のピークが消失し,α体の主ピークはx = 0の13.99°から14.07°まで高角シフトした。これはイオン半径が253 pmのFA+が167 pmと小さいCs+に部分置換された影響である。x = 0.3ではCsPbI3の由来のピークが見られ,α体の主ピークは14.00°まで低角シフトした。これはFA1–x Csx PbI3薄膜中の実質的なCs量が減少した事を意味している。
ペロブスカイト層上に正孔輸送層として2,2′,7,7′-テトラキス(N,N-ジ-p-メトキシフェニルアミノ)-9,9′-スピロビフルオレンをクロロベンゼン溶液よりスピンコート成膜し,銀電極を真空蒸着して作製した平面ヘテロ接合型太陽電池をAM1.5 G,100 mW/cm2の疑似太陽光照射下で評価した。順方向(FS –0.5→1.5 V)と逆方向(RS 1.5→–0.5 V)にスキャンした電流密度−電圧曲線より得られた太陽電池の諸特性を表1にまとめた15)。
太陽電池の光電変換効率(PCE)は短絡時の短絡電流密度JSCと,開放状態の開放電圧VOC,曲線因子FFの積であるPCE=VOC × JSC × FF。FFは最大出力Pmax/(VOC × JSC)で定義される。ペロブスカイト太陽電池の問題としてスキャン方向により異なった電流密度−電圧特性を示す事が多く,順方向時のPCEFSと逆方向時のPCERSから算出するヒステリシスファクター(HF)=(PCERS–PCEFS)/PCERSがヒステリシスの大きさを評価する際に使われる。
x = 0でPCERS 10.2%,PCEFS 4.07%であったが,x が増加するとPCEは向上しx = 0.2でPCERS 14.7%,PCEFS 9.93%まで向上し,これは主にJSC の向上が原因である。またHFもx = 0の0.6から0.32まで減少した。x = 0.3ではPCERS 6.27%,PCEFS 3.66%と大幅に低下した。これは紫外−可視吸収スペクトルで吸光度が減少していた事,原子間力顕微鏡像で表面粗さが増加していたことが一因と考えられる。