1.はじめに
光学システム,光学機器を構成するためにミラーは不可欠である。ミラーの形状誤差は,光学系において不要な収差を生む。そのため,形状誤差が可能な限り低減されたミラーの開発が長年行なわれてきた。現在,研削,研磨などの機械加工によりPeak-to-valley(PV)で100 nmの精度でミラーを容易に作製可能である。一般的な可視領域で使用されているミラーの多くは安価であり,光学性能に影響しない十分高い精度を有している。
現在,大型の放射光施設だけでなく,高次高調波やレーザープラズマなど小型のX線光源が開発されている。X線光源は,今後さらに高コヒーレント化,高強度化が進む。X線光学は21世紀の光学の成長分野の一つであると言える。この分野を発展させるためには,X線光学システムを構成するミラーの開発も重要となる。
当初,私は超精密加工の研究を行っていた。その中で,高精度なミラーの生産性を飛躍的に向上させるためには,加工,計測の効率化には限界があると考えた。例えば,ナノメートルの精度で形状を測定するためには温度環境を安定にする必要があり,少なくとも半日の時間を要する。複雑な形状であれば複数の計測装置を組み合わせる必要もある。精密計測の後は,最適な加工を行うため加工条件を検討し加工を実行する。ミラーが完成するまで,同作業を繰り返し行う。加工速度や計測速度が速くなり自動化が進んだとしても,計測のための待ち時間や加工毎の人によるチェックは不可欠であるため,完全な自動化はできず生産効率には限界がある。
そこで,転写複製により高精度ミラーの作製ができないかと考えた。転写法の一つである電鋳法に着目し10年前から研究開発を行ってきた。幸いにして,研究開始してからすぐに,JSTさきがけなどの大型予算を獲得できた。最近になり応用として,EUV,軟X線集光ミラーの量産製造を電鋳法により可能にした。
本稿では,開発した電鋳法に基づくナノ精度コピー技術を紹介したい。X線ミラーの必要精度,加工・計測法の現状もあわせて説明し,開発した電鋳法の性能,EUV,X線の集光ミラーへの適応例について報告する。