デバイス内電界計測は縦型ダイヤモンドp-i-nダイオードで行った(図2(a))。p型(111)基板上に厚さ5 µmのi層を堆積し,その上に350 nmのn+型層をパターン形成した。ダイヤモンドの合成はマイクロ波化学気相合成により実施した。NVセンター形成のために14Nをイオン注入(飛程:〜350 nm)した。その後に高温アニールで空孔を拡散させることでNVセンターを形成した。したがって,NVセンターはデバイス内に直接内包されている。最後に,電圧を印加するためのアノードおよびカソード電極を形成した。また,ダイヤモンド表面は酸素終端処理を施すことで絶縁性にしている。
計測は共焦点顕微鏡で行った(図1(a))。波長532 nmの励起レーザをNVセンターに照射し,赤色蛍光のみをフィルタを通して検出する。単一NVセンターからの微弱光はアバランシェフォトダイオード(APD)で検出可能である。単一NVセンターであることを確認するために,2つのAPDを利用したHanbury Brown and Twiss(HBT)干渉測定を行った。マイクロ波はサンプルの近くに配置した細い銅線から照射する。共焦点顕微鏡測定はサンプルをイマージョンオイルに浸して実施した。また,電界計測時には3軸電磁石により環境磁場をキャンセルした。
図2(b)にダイヤモンドp-i-nダイオードの電流電圧特性を示す。デバイスは約-4 Vでオン状態になっている。逆方向バイアス領域では少しずつリーク電流が上昇しているが,200 Vにおいても低く抑えられておりブレイクダウンは起こっていないことがわかる。105という高いオンオフ比が得られており,デバイスはダイオードとして機能している。
使用したデバイスでは,n+-i界面において電界集中が起こり,最も電界強度が高くなると予想される。よって,この領域において共焦点顕微鏡観察を行ったのが図3(a)である。発光強度の差により,ダイオードの構造を明確に観察することができる。i層は最も低いバックグランドを示しており,単一のNVセンターの観察を可能とする。n+-i界面から540 nmの距離にNVセンターが明るいスポットとして見え,回折限界である300 nmの空間分解能を有している。このスポットが単一のNVセンターであることをHBT干渉測定により確かめた。遅延時間0 nsにおいて2次自己相関関数が0.5を下回っていることから,原子レベルでただ一つのNVセンターのみ存在していることがわかる(図3(b))22)。また,このNVセンターの軸は[111]方向を向いている。
ダイオードに逆バイアス0〜150 Vを印加したときのODMRスペクトルを図4(a)に示す。0 Vにおいてスペクトルは4本のピークを示している。これは電子スピンとNVセンターを構成する14Nの超微細構造が起因している23)。最も周波数の高いピークと低いピークは核スピン±1に対応し,内側の2本は核スピン0の状態に対応する。内側の2本の分裂はダイヤモンド格子の歪みによるものである。核スピン±1のピークが2本のみ観測されていることから,環境磁場が効果的にキャンセルされていることがわかる。これは,電界による共鳴点変化を正確に評価するために重要である12)。逆バイアスを印加すると分裂幅が大きくなっており,p-i-nダイオード中のi層に発生した横方向内部電界をNVセンターが計測していることを意味している。
ゼロ磁場下において,横電界およびODMR分裂幅は超微細相互作用23)を考慮すると下記のような関係にある。
ここで,Π⊥は電界および歪みの和,Π⊥=E⊥+σ⊥として与えられる。W0およびW±1はそれぞれ核スピン0および±1状態におけるODMR分裂幅である。また,A∥⁄h=2.2 MHzである。低い電圧時には両核スピン状態に対応するピークが観察されている。一方,電圧が150 Vになると,核スピン0状態が分解されていない。これは,おそらく高い電界では共鳴点の差が小さくなるためであると考えられる。しかしながら,電界は核スピン±1状態の信号のみから評価することができる。