3. 偏光回折格子による“複屈折-光強度変換”原理
上述のような問題を解決するために,我々は図3に示す偏光回折格子の回折特性に注目した。この回折格子は図3(a)に示すように複屈折の向きが格子ベクトル方向に周期的に変調されたもので,光配向性材料中の偏光ホログラム記録の研究において光学特性が知られるようになった1)。この複屈折の周期的変調は,アゾベンゼン2)や液晶分子3, 4)の周期的配向によって形成される場合が多いが,構造性複屈折を利用5)することもできる。我々も,この構造性複屈折による格子(図3(b))や光配向性液晶材料を用いた回折格子を利用している。
となる。従って,例えば右回り円偏光を被測定物に入射し,出射光を偏光回折格子に導入して–1次光をモニターしておくとする。被測定物に複屈折が無ければ,等方的な位相変化が生じるだけで偏光状態の楕円率は変化しないので,–1次光の強度は低いままとなる。一方で被測定物に複屈折がある場合は,その複屈折値に応じた偏光状態の楕円率変化が生じ,–1次光にはこの楕円率に基づく回折光強度が生じることになる。これにより,“複屈折-光強度変換”が可能となる。
上記の変換原理を用いて,図4(a)のように偏光回折格子と結像光学系を組み合わせた構成を用いると,回折像をデジタルカメラでモニターすることで,2次元の複屈折分布を光強度分布に変換する複屈折プロファイラーが実現できる。この複屈折プロファイラーは,上述のように偏光回折格子の回折特性を利用しているため,回転操作は不要で結像光学系の性能に応じた解像性能が得られる。またデジタルカメラで得られた光強度分布は図3(c)の特性に基づいて1段階の計算を行うだけで,定量的に位相差に変換することができ,信号処理や演算処理の負荷はほとんどない。従って,使用するカメラのフレームレートに応じた高速の評価が可能となる(例えば一般的な工業用カメラで数10 fps程度)。
この光学系をベースにして,図4(b)のように顕微鏡型の複屈折プロファイラー6, 7)を試作した。この試作機は空間分解能が10μm程度で,検出可能な最小位相差は1 deg以下であり,一般的に高精度位相差測定と言われる範疇の性能を実現できている。光強度分布に変換された複屈折分布は,コンピュータの画面上にリアルタイムで表示され,デスクトップでの簡便な複屈折分布評価を可能にする。