3. 圧縮センシングに基づく単一画素計測法
図2に圧縮センシングに基づく単一画素計測法の概要を示す。図2(a)は,結像面に対して,空間光変調器を配置し,実像を変調する方法の図である。変調された信号はレンズにより,光検出器に集められその強度が計測される。一方,図2(b)に示すように,変調パターンを測定対象に照射し,測定対象に作用する信号を集光することで光強度を測定する手法でも同様の計測が可能である。文献5)では,前者の計測系を用いた手法が“Single Pixel Imaging(SPI)”と名付けられている。
SPIでは,光変調器にDMD(Digital Mirror Device)が用いられることが多い。DMDは,液晶素子と比較して高速に変調分布を切り替える事ができるからである。現在,バイナリー変調(反射率が1か0の切換え)であれば,約30 kHzで動作するものが市販されている。具体的な変調方法としては,様々な形式が考えられる。その中で,アダマール変換の基底ベクトルを利用する方法が比較的よく用いられている。
測定対象の2次元構造を列ベクトルxで表現すると,受光素子で得られる光強度のyは次式で表される。
上式において,Hの行成分が変調分布に相当する。画像再構成では,xとHからxを推定する。Hがアダマール変換行列である場合,再構成画像の画素数と等価な回数の計測を行うことで,所望の画像を得る事ができる。この際,計測データセットを逆アダマール変換すればよい。ただし,この手順で画像化を試みる場合,走査系と同等の測定回数が必要であるので,優位性がない。
SPIは,圧縮センシングを利用することによりその価値を発揮する。測定対象のスパース性を前提にすることで,少ない測定回数で測定対象の画像化が行える。圧縮センシングの原理についての詳説は,他の文献5)にゆずる。画像化に必要な計測回数は,測定対象に依存するが,概ね生成される離散画像の20〜30%程度とされている。
この計測法において,高速化と高精細化は重要な課題といえる。ビデオレートを30 fpsとし,DMDのリフレッシュレートを30 kHzとすると,動画を取得するためには,最大1000回の計測データから画像を生成する必要がある。したがって,圧縮センシングを利用しても,動画撮影が可能な画素数は1万以下である。また,行列Hにおける列の数は,画素数と等価である。
このことは,この行列の要素数は画素数の2乗に比例することを意味する。行列の要素数が増大すると,画像再構成のための信号処理の負荷が大きい。したがって,静止画撮像の画素数における制約もあり,現状において,アダマール変換に基づくSPIで報告されている画素数は10万画素程度である。