真空紫外光による光加工技術の新展開

5. VUVによるガラス化を利用したナノ構造の作製

ガラスは,その優れた光学的・化学的な性質により,さまざまな製品に用いられている。ただし,一般に,ガラスと空気の界面当たり約4%程度の反射が生じることが知られており,これが光のエネルギーの利用効率の低下や迷光の原因となるため,ガラス表面の反射低減は重要な技術課題の1つとなっている。こうした反射防止に関する研究は約200年もの歴史があるが,最近ではモスアイ構造と呼ばれるナノスケールの突起配列構造が,これまで一般的な反射防止方法として知られていた誘電体多層膜と比較して,広い波長域および入射角での反射防止効果があることから広く研究されている11〜13)

様々な加工法が提案されているが,我々は自由曲面への作製が可能で,かつ低コストでモスアイ構造を大面積に作製する製造技術として,シリコーンゴムを用いた光印刷/光ナノインプリントと,VUV光によるシリコーンのガラス化処理を組み合わせた手法を開発している。

図5 印刷とVUV光によるガラス化を組み合わせたモスアイ作製
図5 印刷とVUV光によるガラス化を組み合わせたモスアイ作製

図5は,本手法の一連の流れを概念的に示したものである。まず,モスアイ構造を有するシリコーンゴム製の印刷版を作製しておき,光硬化型のシリコーンゴムを印刷あるいはナノインプリントで基板上に転写の上,UV光の照射により液状のシリコーンゴムを硬化させる。その後,さらにVUV光を照射してシリコーンゴムをガラス化することにより,最終的にガラス製のモスアイ構造を得るものである。

本手法は,原理的に以下のような利点を有している。⑴母型を作るところまでは従来のナノインプリント法と同様であるが,実際に使うのは母型から転写したシリコーンゴム製の版であるため,一旦,母型を作ってしまえば版を大量にコピーでき,トータルでのコストダウンと版の作製に要する時間の短縮が可能。⑵我々が用いる光硬化型のシリコーンゴムは,一般的な熱硬化型のシリコーンゴムが硬化時に約2%収縮するのに対し,わずか0.02%しか収縮しない特性を有するため,柔らかいゴム材であってもナノ構造を高精度に作製することができる。⑶VUV照射によるガラス化で屈折率を石英に近づけることができるため,母材が石英に近い屈折率のガラス素材であれば,モスアイ構造と母材の界面に生じるフレネル反射を最小化できる。⑷ガラス化によって耐スクラッチ性の向上が期待できる。⑸版がソフトなゴムであることを利用して,レンズ等の自由曲面にもパターニング可能。以下,開発中の手法より成果の一部を紹介する。

図6 ガラス化モスアイの透過率
図6 ガラス化モスアイの透過率

モスアイ構造の設計に関しては割愛するが,波長480 nm〜700 nmでの透過率向上を狙って作製したモスアイ構造を測定した結果を,図6に示す。透過率は100%が完全な透明状態であるが,モスアイ構造が無い,すなわち一般的なガラス表面(ホウケイ酸ガラス)の透過率は,可視波長の全域で約92%であった。これに対し,まずシリコーンゴム製のモスアイ構造を有する場合は,設計した480 nm−700 nmの波長域において,最大約2.3%(92.0%→94.3%)まで透過率が向上した。

次に,シリコーンゴムをVUV光でガラス化するとさらなる透過率の向上が得られ,未処理の基板に対し最大約3.5%(92.0%→95.5%)向上した。以上,ほぼ設計通りの波長域で高い反射防止効果が得られていることが明らかとなった。本測定はガラスの片面のみにモスアイ構造を作製したものであり,例えば,roll-to-rollプロセスで両面同時に作製することができれば,さらなる透過率の向上も期待できる。

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