そこで登場するのが,疑似位相整合法と呼ばれる方法です。
英語でQuasi Phase Matchingと言いますので,略してQPM法と呼ぶこともあります。図3で,点Fで発生したSHG光の位相が,それまでの位置で発生したSHG光と位相が逆転するため,その点以降のSHG光が重ね合わせられる結果,強度が増大せず,むしろ減少していきます。
そこで,点Fからの結晶の原子配置を,点Fまでの原子配置と逆転させた構造を作りますと,その結果,点Fで発生するSHG光の位相を逆転させることになります。すると,点Fで発生したSHG光の位相が逆転し,それ以前の位置で発生したSHG光と重ね合わせられると,SHG合成光が点F以降も増大することになります。
すなわち,図6の例では,点Aから点Fに至る距離毎に,位相が反転するような周期的な構造を作ることによって,結晶の中を伝搬するにつれて,順調に増大するSHG合成光が得られることになります。この様子を描いたのが図7です。これは疑似的に位相整合を満足させていますので,疑似位相整合法と呼ばれているのです。
結晶の原子配置を反転させるには,高電圧を印加するか電子ビームを照射するなどで達成できます。このアイデア自体は古くからあったのですが,数μmの周期構造を作る技術が無かったために実現されなかったのです。このような構造を周期的分極反転(Peridoic Poled)構造と言います。
このQPM素子は分極反転構造を形成する結晶方位を選ぶことによって,複屈折法では実現できなかった方位の高い非線形性を利用できるようになり,いろいろな波長に対応した高効率の波長変換が実現できるようになりました。
今までは,1つの光を非線形光学結晶に入射しました。次に,2つの異なる周波数を持つ光を入射させた場合について考えましょう。
図8のように,ω1とω2の角周波数を持つ光が入ってきたら,入射電場の2乗に比例する項から,2ω1,2ω2の第二高調波以外に,ω1+ω2の光とω1-ω2の光が発生します。前者を和周波発生,後者を差周波発生と呼んでいます。4つの周波数の光が発生するのですが,全てについて位相整合条件を満たすことはできませんので,どれか1つに合わせて位相整合を取ることになります。
2つの光を入射させる場合の位相整合は,意外と簡単なのです。2本の光の入射方向を調整することによって,特定の非線形光に対して位相整合を取ることができます。第二高調波発生の場合は,位相整合を取る際に屈折率の大きさだけに着目してきました。本当のところは,大きさだけではなく,方向も加味して考えなくてはいけないのです。
和周波発生は,短波長域への波長変換,すなわち短波長域におけるコヒーレント光発生に役に立ちます。具体的な例は,後でお示しします。
一方,差周波発生は長波長光を作る際に役に立ちます。接近した周波数の光の差周波発生を使うことによって,既存のレーザーでは実現しにくかった中赤外域やテラヘルツ領域のコヒーレント光を得る手段として有用です。
差周波発生だけを抜き出した図9の下に注目してください。ちょっと見方を変えてみましょう。非線形媒質に振動数ωpの強いポンプ光と振動数ωs(<ωp)のシグナル光とを入射すると,差周波発生の過程を介してシグナル光が増幅されると同時に振動数ωi=ωp-ωsのアイドラ光が発生して増幅されていきます。この過程を光パラメトリック増幅(Optical Parametric Amplifier:OPA)と言います。