ところで,図5の例では,すべてGaAsでできています。このような構造では,pn接合層すなわち活性層で発光した光が,隣接するクラッド層(n型GaAs層とp型GaAs層)に吸収されてしまい,発光効率が落ちてしまいます。活性層で発光した光を,効率よく結晶外に取り出すためには,発光部(活性層)のバンドギャップエネルギーが,両端の電子と正孔の供給源であるクラッド層のそれより小さくしなければなりません。ここで役に立つのが,化合物半導体の原子置換によるバンドギャップエネルギーの制御です。
クラッド層をp型とn型のAlGaAs半導体でつくり,その間に活性層としてのp型GaAs半導体を挟み込んだ構造を作ります。AlGaAsのバンドギャップエネルギーは2 eV,p型GaAsのそれは1.4 eVです。両端のクラッド層の電子と正孔を両方から活性層に移動させます。活性層に電子と正孔が集まってきて,再結合すると,1.4 eVに相当する890 nmの赤外光を出します。
この波長の光は,クラッド層で吸収されることなく,結晶外に効率よく出てきます。更に,活性層の屈折率が,クラッド層より高いので,光は活性層に閉じこめられことになります。すべてをGaAsで作った図5のようなものをホモ構造と言います。
活性層GaAsがそれとは異なるクラッド層AlGaAsに接しているものをヘテロ接合と呼んでいます。活性層の両面がヘテロ接合になっていますので,図8をダブルヘテロ構造と呼んでいます。この構造を作ることができるようになってから,半導体レーザーの効率は格段の進歩を遂げました。