半導体レーザー

ところで,図5の例では,すべてGaAsでできています。このような構造では,pn接合層すなわち活性層で発光した光が,隣接するクラッド層(n型GaAs層とp型GaAs層)に吸収されてしまい,発光効率が落ちてしまいます。活性層で発光した光を,効率よく結晶外に取り出すためには,発光部(活性層)のバンドギャップエネルギーが,両端の電子と正孔の供給源であるクラッド層のそれより小さくしなければなりません。ここで役に立つのが,化合物半導体の原子置換によるバンドギャップエネルギーの制御です。

クラッド層をp型とn型のAlGaAs半導体でつくり,その間に活性層としてのp型GaAs半導体を挟み込んだ構造を作ります。AlGaAsのバンドギャップエネルギーは2 eV,p型GaAsのそれは1.4 eVです。両端のクラッド層の電子と正孔を両方から活性層に移動させます。活性層に電子と正孔が集まってきて,再結合すると,1.4 eVに相当する890 nmの赤外光を出します。

この波長の光は,クラッド層で吸収されることなく,結晶外に効率よく出てきます。更に,活性層の屈折率が,クラッド層より高いので,光は活性層に閉じこめられことになります。すべてをGaAsで作った図5のようなものをホモ構造と言います。


図8
図8

活性層GaAsがそれとは異なるクラッド層AlGaAsに接しているものをヘテロ接合と呼んでいます。活性層の両面がヘテロ接合になっていますので,図8をダブルヘテロ構造と呼んでいます。この構造を作ることができるようになってから,半導体レーザーの効率は格段の進歩を遂げました。

宮崎大学・名誉教授 黒澤 宏


黒澤 宏
黒澤 宏
執筆者紹介
黒澤 宏(くろさわ こう)
大阪府立大学工学部博士課程を経て1976年より同大学助手,助教授を経て1991年より宮崎大学工学部電気工学科教授,その後2007年9月に大学教員生活に終止符を打ち,(独)科学技術振興機構JSTイノベーションサテライト宮崎の館長に就任し,地域における産学官連携業務に専念。現在は(一社)九州産業技術センター 成功報酬型事業化支援制度・専任コーティネータを務めている。レーザーEXPOにおいては,2003年から主に基礎部門の講師を務めており,初心者にわかりやすくレーザーについて解説している。

同じカテゴリの連載記事

  • 新しいレーザー
    新しいレーザー 黒澤 宏 2016年12月20日
  • レーザービームを繰る-波長変換
    レーザービームを繰る-波長変換 黒澤 宏 2016年11月11日
  • レーザー光を操る-偏光
    レーザー光を操る-偏光 黒澤 宏 2016年10月25日
  • 半導体レーザー(その二)
    半導体レーザー(その二) 黒澤 宏 2016年10月19日
  • 半導体レーザーの基礎と実際
    半導体レーザーの基礎と実際 黒澤 宏 2016年09月21日
  • ファイバーレーザー
    ファイバーレーザー 黒澤 宏 2016年09月12日
  • 波長可変固体レーザー
    波長可変固体レーザー 黒澤 宏 2016年09月05日
  • ネオジウム固体レーザー
    ネオジウム固体レーザー 黒澤 宏 2016年08月31日