レーザー共振器と横モード

すなわち,TEM01モードは上下に2つの明るいスポットがあり,ビームの中心の光強度はゼロです。TEM10モードはTEM01モードと直角の方向,左右に明るい2つのスポットと中心の強度がゼロです。また,TEM11モードは,4つの明るい点を持っていますが,この場合もビームの中心はゼロの強度です。TEM00モードは,進行している光波のすべての部分がそろっていますので,レーザーにとってはもっとも望ましいものです。

それ以外のモードは,いずれも共振器の中心を通る軸から外れて進む波によって形成されます。したがって,軸上を進む波のみを使うように中心軸上に小さな絞りをいれると,TEM00モードだけを作ることができます。

TEM00モードは,光線のどこをとっても同じ形の強度分布を持っています。レンズなどで絞っても同じ分布となり,さらに集光ビームのスポット径を小さくしてパワー密度(単位面積当たりの光パワー)を高くすることができます。

一方,用途によっては他のモードが有利な場合もあります。レーザービームの特性を良く知って,用途によって使い分けましょう。これが,頭の良いレーザー利用術です。


図4
図4

図4のように,半径Dのレーザービームを焦点距離Fの凸レンズで集光する場合,レンズの焦点位置におけるビームの直径2dは

2d=(4λ/π)(F/D)M2

で計算できます。また,ビーム径が$$\sqrt{2d}$$になる距離を焦点深度と言い,

b=(8λ/π)(F/D)2M2

で計算できます。レンズで集光する場合,これらの2つの数値が重要になってきます。TEM00のガウスビームの場合はM2=1ですが,高次の横モードが含まれている場合,ビーム品質が低下し,レンズでの集光特性が悪くなります。その程度を表すのが,このM2(エムスクエア)です。レーザー製品のカタログを見ますと,M2の値が書いてあります。レンズで絞って使う場合は,この数字の小さいものを使いましょう。

宮崎大学・名誉教授 黒澤 宏


黒澤 宏
黒澤 宏
執筆者紹介
黒澤 宏(くろさわ こう)
大阪府立大学工学部博士課程を経て1976年より同大学助手,助教授を経て1991年より宮崎大学工学部電気工学科教授,その後2007年9月に大学教員生活に終止符を打ち,(独)科学技術振興機構JSTイノベーションサテライト宮崎の館長に就任し,地域における産学官連携業務に専念。現在は(一社)九州産業技術センター 成功報酬型事業化支援制度・専任コーティネータを務めている。レーザーEXPOにおいては,2003年から主に基礎部門の講師を務めており,初心者にわかりやすくレーザーについて解説している。

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