【本連載執を筆者された黒澤宏氏は2019年4月15日に逝去されました。ご冥福をお祈りいたします。】
レーザー光の最も大きな特徴はコヒーレンス(可干渉性)です。一般の光は自然放出光であるため,光波の位相,エネルギーはランダムであり,干渉することはありません。しかし,レーザー光は誘導放出により発生する光であるため,光波の位相,エネルギーがそろっており干渉します。波は条件が整えば重ね合わせることができます。これが干渉です。
図1右に描いてあるように位相と周波数が同じ波であれば,山と山,谷と谷を重ね合わせることができます。このようなコヒーレントな波を,全部を重ね合わせると振幅が大きくなった波となります。図1左のように位相や周波数が揃っていなければ,平均化されてしまい無秩序な波しか得られません。これは,インコヒーレントな波です。
ここで,位相のお話しします。アナログ時計を思い浮かべてください。この時計には短針が無く,長針だけが左回りに動いています。図2のように左側から光を当てると,右側に置いた紙の上に長針の影がうつるものとします。時計の針を左回りに回転させると,紙にうつった針の影も上下に動きます。この針の影の上下の動きを時間と共にプロットしていくと,図2のような波が現れます。
ここで,時計の針が水平方向となす角度θ(シータ)と,針の影がつくる波の上下の動きを比較すると,波の上下の動きは,ちょうど角度θに対応していることがわかります。この角度θが位相です。すなわち,波の位相は,周期的に変化する波の状態において,1周期内の進行の段階を表すものと考えることができます。また,1秒間に繰り返す波の数を周波数,隣同士の山の間隔を周期と呼んでいます。
レーザーのコヒーレンスには2種類あります。異なる時間にレーザーを出発した光波の干渉に関するものと,同じ時刻に異なる場所を出発した光波の干渉に関するものです。前者が時間コヒーレンスで,後者が空間コヒーレンスです。