■光通信デバイスを利用した安価なテラヘルツ波検出技術
千葉工業大学教授の水津光司氏は,安価な半導体レーザーと光通信機器に用いられる光学素子で構築した,テラヘルツ波の励起光源と検出系を紹介した。
この研究ではテラヘルツ波の発生に非線形光学効果を用いる。周波数の異なる2色のレーザーを同軸で結晶に入射すると,チェレンコフ位相整合により,レーザーとは異なる角度にテラヘルツ波が発生する。光の波長設定によりテラヘルツ波の周波数を制御できるので,周波数可変な単色テラヘルツ波光源とすることができる。
発生したテラヘルツ波は結晶上にシリコンのプリズムを置くことで取り出せる。しかし,取出しをしないテラヘルツ波は結晶界面にエバネッセント波として局在するので,これを使ってセンシングを行なう。
実験では,結晶に情報通信研究機構(NICT)と共同開発した,チタン拡散光導波路を作製したニオブ酸リチウムを用いた。
レーザーを入射した結晶の近傍に測定物を設置すると,エバネッセント波が測定物の吸収係数や屈折率を反映し,振幅や位相が変化した状態で結晶内に戻ってくる。そのテラヘルツ波との相互作用によって励起光に測定物の情報が乗る。つまり,入射した2色の光の信号強度を計測すれば,その差分により間接的にテラヘルツ波による計測の情報を得ることができる。
検出例として水蒸気のセンシングが紹介された。ガスの吸収線幅は細いので,その検出には単色性の良いテラヘル波が望ましい。開発した分光装置は2つの励起光の周波数を適切に選ぶことで精緻な検出が可能なため,水蒸気の吸収線である2.220 THzのピークを鮮明に捉えることができた。濃度的には,飽和水蒸気圧から744 ppmくらいまでの測定が可能なことを実証した。
この技術では結晶部分をセンサーとして本体とファイバーでつなげば,フレキシブルな取り回しが可能になる。エバネッセント波を用いるので液体や気体のセンシングに適しているほか,絶縁性に優れており,防爆が必要なエリアでの使用も見込まれる。
テラヘルツ波の発生と受光は単一の光学系で行ない,レーザーも出力の小さい光通信デバイス用のものを利用できるので,安価でアライメントも簡単なデバイスが実現できる。さらに,受光部にフォトダイオードを用いるので,電気計測部をPCで処理すれば,さらなる低価格化が望めるという。
今後の課題としてはSN比の向上,導波路部分のロバスト化などがあるが,いずれもデバイスを最適化するなどして克服できる見通しだという。