新たなアプローチが試されるテラヘルツ波デバイス ─JSTプログラムに見るその動向

科学技術振興機構(JST)は,日本の産業競争力の強化および基盤研究の活性化を目指し,平成22年度より新たな競争的資金制度「産学共創基礎基盤研究プログラム」の公募を行なっている。その技術テーマの一つである「テラヘルツ」分野では,プログラム「テラヘルツ波新時代を切り拓く革新的基盤技術の創出」(プログラムオフィサー:東北大学名誉教授 伊藤弘昌氏)を展開している。

テラヘルツ波はセンシングや通信など様々な応用が期待されているものの,その研究は緒についたばかりで,デバイスの開発もまだまだ黎明期にあるのが現状だ。中でももっとも基本的なデバイスとなるテラヘルツ波光源・検出器については,高性能化へのブレークスルーに大きな期待がかかっている。

3月23日,同プログラムはJSTの新技術説明会において,終了課題・実施課題の中から,大学,研究機関による成果として,テラヘルツ波検出器4件,光源1件,計5件を紹介した。

■MEMS共振器によるテラヘルツ波検出
MEMS検出器の原理 出典:JST
MEMS検出器の原理 出典:JST

テラヘルツ領域においては,光源に比べて検出器の開発が遅れている。理想的な検出器として,近距離から遠距離(10~30 m)の検出,リアルタイム検出,アレイ化が可能,室温動作が可能なことが求められている。

しかし,現在実用化されている主な検出器のうち,光伝導型検出器は高感度だが原理的に室温動作ができない。一方,整流型検出器は室温で動作するが高周波まで測ることが難しい。

これらに対し,ボロメータは原理的に室温動作が可能で周波数範囲も広いという特長がある。ただし,高感度を得るためにはやはり液体ヘリウムによる冷却が必要となる。

さらに,ボロメータは素子の設置に繊細な技術が求められるため,アレイ化が困難という問題もあった。

そこで,東京大学教授の平川一彦氏は,抵抗変化以外の物理量を計測することがテラヘルツ波検出器のブレークスルーになるとして,MEMSボロメータを開発した。その原理は,両持ち梁構造を持つ共振器の梁に渡した薄膜がテラヘルツ波を吸収して温度が上昇すると振動周波数も変化し,圧電効果によりテラヘル波を電圧の変化として検出できるというもの。振動をレーザーなどで検出する必要もなく,集積化にも適している。

試作したMEMSを調べたところ,高い感度(NEP<100 pW/Hz0.5オーダー)と広いダイナミックレンジ(~107),さらに10 kHzまでの高速動作を確認した。

これは従来の室温動作する素子よりも格段に速く,製品化されている酸化バナジウムを用いたマイクロボロメータと比較して100倍,焦電検出器と比較して1000倍の速度となる。シリコンレンズを付けて室温で検出テストした結果,焦電検出器と同等以上のS/N比も得ることができた。

平川氏はこの素子について,FTIRに標準装備されている素子と置き換えれば測定が格段に速くなるほか,基礎科学研究で用いれば,冷却の必要が無い分利便性が向上するとしている。また,近い将来には集積化によりカメラ用の素子とすることも可能だという。

今後は集光効率の向上などで感度を1桁向上させると共に,集積化に向けた読み出し回路についても開発を進めるとしている。