北海道大学の研究グループは,天然に豊富に存在する安価な L-アミノ酸から創薬において重要な光学活性非天然アミノ酸を効率的に合成する新手法を開発した(ニュースリリース)。
アミノ酸及びその誘導体は、生命科学・創薬化学の研究において欠かすことができない重要な化合物です。多くのアミノ酸はその三次元的な配置から鏡像異性体(L体(左手型)とD体(右手型))として存在するが,鏡像異性体間で生物活性などが異なる場合が多いため,生命科学・創薬化学において利用するためには,それぞれを別々に合成(不斉合成)することが必要となる。
安価なアミノ酸からより付加価値の高い四置換型非天然アミノ酸を合成する手法は,これまで数多く開発されてきた。一般に,天然のアミノ酸はL体の鏡像異性体として存在するが,四置換型非天然アミノ酸に変換するために必要な置換基をα炭素に導入する際に,L-アミノ酸が本来持っていたキラリティー(不斉情報)は失われてしまい,生成物はL体とD体の混合物として得られる。
従って,四置換型非天然アミノ酸誘導体の一方の鏡像異性体のみを合成するには,天然アミノ酸由来のキラリティーを有効に利用することはできず,高価な不斉触媒などを添加してそのキラリティーを利用することが不可欠であると考えられてきた。
一方,研究では L-アミノ酸誘導体と銅触媒が相互作用した際に刹那的に生じる銅錯体の幾何構造に原料(L-アミノ酸誘導体)の不斉情報を”一時的に保存”し,最終的に生成物に転写させることでこの問題を解決し,高価な不斉触媒に依存しないプロセスを実現した。
これにより,安価で豊富に存在するL-アミノ酸を唯一の不斉源として,付加価値の高い左手型の非天然アミノ酸を合成することが可能になった。また,この手法は,様々な化合物の変換にも応用可能であり,研究グループは,一般的な合成技術へと発展することが期待されるとしている。