
名古屋大学と粉末冶金技術のポーライトは,厚さわずか0.3mmで10W(10W/cm2)の高熱フラックスに対応可能な「超薄型ループヒートパイプ」の開発に成功した(ニュースリリース)。
現在,モバイル機器に広く用いられているグラファイトシートは,薄くて柔軟性があるものの,あくまで固体熱伝導による拡散型の放熱手法であり,高熱密度(高熱フラックス)には対応しきれないという課題がある。
これに対して,ヒートパイプ(HP)やベイパーチャンバー(VC)は,液体の蒸発潜熱を利用した高効率な熱輸送が可能であり,実効熱伝導率が5,000W/mKを超える場合もある。しかし,HPやVCは,極薄化に伴って流路内の液供給に制約が生じ,熱輸送性能が急激に低下する傾向がある。
そこで研究では,0.3mmという世界最薄クラスのループヒートパイプ(Ultra-Thin Loop Heat Pipe: UTLHP)を新たに開発した。ループヒートパイプ(LHP)は,蒸発器内のウィック(多孔体)にのみ毛細管力を働かせる構造で,液体と蒸気の流路を分離しているため,従来のHPやVCと比べて圧力損失が小さく,長距離かつ高熱密度な熱輸送が可能。
今回のUTLHPはIC カードサイズの銅板をベースに,焼結銅粉末による微細ウィック構造を実装し,レーザー溶接により気密性の高い構造体として一体化。また,ウィックは熊手形状にすることにより蒸気が抜けるグルーブ構造機能も兼ね備えている。
水を作動流体とし,内部の流路に詰まり防止と流動を安定化させる柱(ピラー)構造を導入。また,あらゆる姿勢で動作できるよう,二次ウィックを設けて液供給の安定性を確保した。
さらに,これまでのUTLHPでは冷却器(凝縮器)のサイズが大きく,モバイル機器への実装が困難だったが,今回設計段階から数値モデルに基づく小型最適化を実施し,薄型化・高性能化・実装性の三立を達成したという。
このUTLHPは,全5方向(水平・上下・縦横)で安定して最大10Wの熱を輸送できることを実証した。UTLHPの実効熱伝導率は約18,000W/m/Kで,一般的に熱伝導が高いといわれている銅の約45倍,グラファイトシートの約10倍高いことも分かった。
研究グループは,スマートフォンやタブレット等のモバイル機器の放熱性能の飛躍的向上に貢献するだけでなく,IC カードの国際規格サイズ(85×54×t0.76±0.08mm)にも準拠しているため,ICカードの放熱にも適用することができるとしている。