千葉大学の研究グループは,有機EL(OLED)をはじめとする有機デバイスに電圧をかけて駆動した状態で,内部の電位分布の状態を調べることのできる全く新しい計測手法を開発した(ニュースリリース)。
有機ELのさらなる高機能化・省エネルギー化のためには,注入する電荷を効率よく発光層まで到達させて再結合させる必要がある。そのためには有機EL素子を構成する有機材料内部や異なる有機層界面での電荷の生成や輸送挙動を実際の素子のレベルで詳細に調べなければいけない。
しかし,厳重に密封された有機EL素子内部の電荷挙動を調べることは容易なことではない。そのため,有機EL素子内部の有機層中における電荷の生成や輸送過程を非破壊的な手段を用いて調べるための技術開発は急務だった。
研究グループは,従来の和周波発生分光法(SFG)を発展させ,界面の電子スペクトルを取得可能な,電子和周波発生分光(ESFG)を開発した。この手法により,有機EL素子を駆動中の電荷の移動状態をリアルタイムで計測・解析できるようになった。
研究では,異なる構造を持つ3種類の有機EL素子(OLED1~3)を作製し,ESFGによる電圧応答測定を実施。中でもOLED2とOLED3は,素子の輝度寿命が長くなることで知られるBAlqという有機層を発光層と電子輸送層の間に挿入しており,これにより素子内部の電位分布が変化していることを明らかにした。
特に,ESFGによってOLED1では発光が正孔輸送層との界面で起きていたのに対し,BAlqを含む素子では発光界面が移動していることが確認された。この発光位置の変化により,電荷の局在化が抑えられ,ロールオフ(高輝度時の発光効率低下)が緩和される結果,高輝度領域における電流効率が向上していることがわかった。
加えて,電荷集中の抑制は素子寿命の延長にも寄与しており,BAlq層の挿入が発光効率と寿命の両方を改善する有効な手段であることが明らかになった。
この研究により,有機材料を積層する際の材料を適切に選択することにより,内部にある各有機層の電位バランスを制御することが可能であることがわかった。有機ELをはじめとする有機デバイスでは材料開発だけでなく,その設計が重要な要素となる。
研究グループはこの成果について,デバイス設計において,実際の素子を用いて評価可能な手法を新たに提供するものであり,有機デバイスの高性能化や,長時間の駆動による劣化の要因の解析への応用が期待されるとする。さらに,有機太陽電池などにおける高効率化に向けた界面設計につながるなど,今後の多方面への応用が期待されるとしている。