北陸先端科学技術大学院大学(JAIST),物質・材料研究機構,東北大学は,物理法則と計測原理を組み込んだ深層学習技術の開発により動的コヒーレントX線回折イメージング(動的CXDI)の回折データから,高精度に試料のナノ構造を再構成するための新たな位相回復手法を確立し,動的構造変化の可視化に成功した(ニュースリリース)。
持続可能な社会の実現や次世代技術の発展には,新規高機能材料の開発が不可欠であり,そのためには短期間かつ効率的に材料を設計・評価する手法が求められる。しかし,従来の観察技術では,光源の強度制限により空間分解能と時間分解能がトレードオフの関係にあり,高い分解能を同時に実現することが困難だった。
この課題に対し,透過力の高いX線を用いるCXDIが注目されている。特に,走査型CXDIは高い空間分解能と広い視野を両立できる手法として有望であるが,時間分解能が低いため,試料の動的現象を捉えることが難しいという制約があった。
この問題を解決するため,新たに動的CXDI法が開発され,試料を移動させずに動的現象を観察する手法として期待されている。しかし,CXDIでは回折像から試料の元の構造を再構成する際に情報損失が生じ,解析の複雑性や正確性の確保が課題となっていた。
研究グループは,物理法則と計測原理を組み込んだ深層学習を活用した新たな位相回復手法「PID3Net」を開発し,ナノスケールの構造変化を高精度に可視化する手法を確立した。この位相回復手法では,CXDI測定原理や計測システムの特徴を反映し,時間領域におけるデータの連続性を活用することで,高精度な動的像の再構成を実現した。
特に,時間畳み込みを用いた時空間相関の学習機構により,動的変化を高精度に捉えることができるだけでなく,全変動正則化の適用によりノイズを抑えながら滑らかな画像の再構成が可能となった。これにより,計算負荷を低減しつつ,短時間露光でも高い分解能を維持しながらナノスケールの高速構造変化を正確に観察できるようになった。
この手法の有効性を検証するため,数値シミュレーションおよび高輝度放射光施設の硬X線を用いた実験を実施し,動かされる標準試料や水溶液中のコロイド金粒子の動的イメージングを行なった。その結果,従来手法を大きく上回る精度での再構成が可能であることを確認し,ナノスケールの動的観察の新たな可能性を開拓した。
研究グループは,この技術の進展により,可視光が透過しない物質の内部構造解析や,高分子・生体細胞中の微粒子運動の可視化など,材料科学・バイオ研究・ナノテクノロジー分野における革新的な応用が期待されるとしている。