関西医科大学の研究グループは,光免疫療法で使用される光感受性色素IR700の誘導体IR702HKTの合成方法を確立し,IR702HKTがIR700とほぼ同等の性能をもつことを示した(ニュースリリース)。
光免疫療法とは,がん細胞に特異的に結合する抗体と光感受性色素IR700を組み合わせた薬剤を投与した後,がんに対して近赤外光を当てることでがんの細胞死を引き起こす,新しいがんの治療法となっている。
薬剤や近赤外光は体に対して害がなく,がん細胞だけ選択的に殺傷することができるため,副作用の少ない治療法として期待されている。現在のところ,日本では切除不能な局所進行又は局所再発の頭頚部癌に対する治療として保険適用されており,全国160施設以上で治療が行なわれている。
光免疫療法でがんの細胞死が引き起こされるメカニズムも明らかにされており,IR700が光を吸収して化学構造が変わることが重要であると示されている。そこで,このメカニズムに基づいて化学構造を最適な形に変えることで更に治療効果の高い光感受性色素が開発されることが望まれている。
しかし,IR700は複雑な構造をしており,化学合成する方法が確立されていない。そのため,IR700誘導体の報告はほとんどなく,基礎研究のレベルにおいてもIR700よりも優れた光感受性色素の報告はなされていない。そこで,この課題を解決することを目指し,研究に取り組んだ。
研究グループは,IR700の基本構造であるケイ素フタロシアニン合成に焦点を当て,様々な種類の化合物の合成を試みることで,構造と反応生成物に関する知見を集めた。その結果,特定の構造の化合物は合成が容易であることを見出した。
この知見をIR700誘導体の化学構造の設計及びその合成方法に反映させ,実際に合成することに成功した。研究グループは,今回の研究で開発に成功したIR700誘導体のことをIR702HKTと呼んでいる。IR702HKTと抗体を組み合わせた薬剤を調製し,細胞を用いた検討を行なったところ,IR702HKTはIR700と同等の細胞殺傷性を有することが示された。
この成果は,光免疫療法の光感受性色素を改良するためのプラットフォームとなるもの。研究グループは今後,IR702HKTの化学構造を更に洗練させ,IR700よりも優れた光感受性色素が創製されることが期待されるとしている。