東京科学大学と東京大学は,蛍光分子等のスイッチ分子の結合をトリガーとして,タンパク質の動きを協働的に制御する分子設計技術「分子ドミノ」を開発した(ニュースリリース)。
タンパク質デザインが2024年のノーベル化学賞を受賞し,AIを用いてタンパク質の構造と機能を狙い通りに設計する技術が発展してきているものの,タンパク質の協働的な動きを分子レベルで制御するような設計は極めて困難とされていた。
研究グループは,タンパク質内にスイッチ分子が結合するようなポケットを設計し,その周辺に複数の芳香族残基を配置することで,ポケットと隣接した芳香族クラスターを有するタンパク質を構築した。
このタンパク質は,適切な形状のスイッチ分子が結合することをトリガーとして,内部の芳香族残基の配向変化が連鎖的に伝播する特徴を持つことから,このシステムを分子ドミノと名付けた。
研究グループは,タンパク質のポケットおよびその周囲に芳香族アミノ酸の一種であるフェニルアラニン残基を複数導入したタンパク質を大腸菌で発現し,カラム精製した。次に,設計したタンパク質溶液と難水溶性の芳香族蛍光分子(ナイルレッド,クマリン153あるいはDCM)を,50ºCで24時間混合した。
混合液を透析・結晶化し,X線結晶構造解析した結果,ナイルレッドおよびクマリン153が,設計した分子ポケットにπ–πスタッキング相互作用を介して固定されていることを確認した。ナイルレッド結合時には,ポケット周辺のフェニルアラニン残基の配向が変化し,協働的な構造変化を示した。
クマリン153が結合した場合には,このような構造変化は見られず,芳香族クラスターの動的変化が結合する蛍光分子の構造に依存することを確認した。したがって,適切な形状の蛍光分子を添加することで,分子動態の精密な制御が可能であることを示した。
また,ナイルレッドが示す蛍光量子収率が,溶媒中に遊離している状態に比べ,分子ポケット内に結合することで88–95%に向上することも確認した。これにより,設計した分子ポケットおよび芳香族クラスターは,材料的な観点からも興味深い物性を示すことがわかった。
今回使用した蛍光分子は,いずれも複数の芳香環を分子骨格に有し,水に溶けにくい性質を持っているが,設計したタンパク質溶液と混合すると,タンパク質に内包され,水に溶けるようになることを,分光学的測定や結晶構造解析から明らかにした。
研究グループは,この技術を応用することで,外部刺激に応答する複雑な生体分子ロボットの創出と制御や,芳香環を分子骨格に有する難水溶性化合物の薬物輸送につながるとしている。