中央大学の研究グループは,「ブラシで塗る」「筆で描く」といった簡便さを持つと同時に,非破壊検査デバイスとしての高感度動作・広汎用性を発揮する光学センサ素子の創出に成功した(ニュースリリース)。
非接触で大面積な解析性能を有する「光-電磁波撮像」は,非破壊検査技術の中心的役割を担っている。特に,亀裂等に対する単純な透視に加え,材質の同定(対象が何で出来ているか)は,代表的な検査項目。これらを実現するには,可視光と電波の中間周波数に位置する電磁波(ミリ波:MMW,テラヘルツ波:THz,赤外光:IR)を用いた広帯域・多波長で高感度な画像計測が有効とされている。
材質同定を志向する非破壊検査の実現という観点において,画像計測に欠かせないセンサーの設計・作製に対して,「光吸収による発熱」「その後の“熱電変換”」という2つの異なるエネルギー現象を融合した光熱起電力効果(PTE)が,動作原理として徐々に定着し始めている。
センサー材料による高い吸光率(A)・ゼーベック係数(S:熱電変換信号強度に比例する物理パラメータ)の両立が求められる中,従来型PTE設計ではAまたはSというどちらか片一方にのみ高い物理特性を示す単一素材の採用が主流となっている。この傾向は,PTEセンサーに対して頭打ちな動作感度・限定的な撮像帯域といった非破壊検査素子応用への致命的な課題を残している。
そこで研究ではPTE素子設計における新展開として,既存材料の中でも卓越した光学特性を持つカーボンナノチューブ(CNT)膜(A: MMW–IR,更には可視光にわたり一貫した90%以上)と,廃熱利用の観点で再生可能エネルギー技術としての実用化も進むビスマス化合物(Bicom,S:金属,半導体,化合物の中で室温帯では最高レベル)が一体化結合したセンサーを創出した。
この素子は,CNTの高効率な吸光特性と,Bicomの高効率な熱電変換特性を兼ね備え,相乗効果により,画像計測性能の観点で非破壊検査技術分野での更なる発展に貢献するものだとする。
また,PTE素子としての性能改善に加えて,素子自体の作り易さにも着目し,このセンサーを所望箇所に塗って描けるペーストとして展開した。これらの取り組みは,検査性・操作性の両面において,モノつくり現場での安全品質保証をより確実なものとする位置付けと言え,材料組み合わせにおける高い自由度から,今後の更なる基礎研究としての探求により革新的産業技術への進展が見込めるとしている。