
筑波大学と東京大学は、非線形なトポロジカル物質を理論的に解析することで,それがトポロジカル相からカオスへの転移を起こすことを明らかにした(ニュースリリース)。
物理学において,トポロジーの考え方は幅広く応用されている。トポロジカル物質では,そのバルクが持つ周期構造のトポロジーが示す性質を反映して試料端にエッジ状態と呼ばれる特異な電子状態が現れることが予測できる。
このようなバルクのトポロジーとエッジ状態の関係はバルクエッジ対応と呼ばれ,近年の研究では固体に限らず,流体の波や光学メタマテリアルなどへの拡張も議論されている。
これらの拡張先の中には非線形なダイナミクスを示すものが存在する。非線形なダイナミクスを解析する数学の分野は力学系理論と呼ばれる。力学系理論において重要な概念の1つにカオスと呼ばれるダイナミクスの不安定化がある。
これはノイズなどが存在しなくても,初期条件の微小なずれが時間とともに増大し,長期の振る舞いが予測できなくなる現象で,天気の変化など身近な事象にも関わるもの。
一方で,これまでのトポロジカル物質の研究のほとんどは線形系を対象としていたため,力学系理論と非線形トポロジカル物質の関係,特にカオスがバルクエッジ対応に変更をもたらすかといった基本的な問いが解明されていなかった。
研究では,非線形物質のエッジ状態を理論的に解析することで,非線形性が強い時にトポロジカルなエッジ状態から空間的にカオスな不安定状態への転移が起こることを明らかにした。そして,そのカオス転移によって非線形系ではバルクエッジ対応が破れうることを示した。
ここで重要となった発想は,力学系理論をエッジ状態の空間方向の解析に適用することで,それがカオスのみならずトポロジーを特徴づける量であるトポロジカル指数との対応も明らかにするというもの。
より詳細には,力学系理論で用いられる分岐図によって,異なる非線形性強度におけるエッジ状態の振る舞いを分類し,トポロジカル相とカオスを同じ考え方で理解することができる。
分岐図で枝分かれが起きる転移点がエッジ状態の振る舞いの変化点に対応し,①線形系と類似のエッジ状態,②非線形系特有のエッジ状態,③カオス転移の際の分岐により不安定化した状態と変化していく。
③の不安定化した非線形性の強い領域では,エッジ状態がもはや端にのみ存在した状態であるかどうかの判別ができず,その意味でバルクのトポロジーとエッジ状態の間の対応(バルクエッジ対応)が破れることが示唆される。
研究グループはこの研究の手法について,トポロジーとカオスの効果を用いた,ノイズに対して安定に作動する非線形光学・量子デバイスの設計原理へとつながることが期待されるとしている。