東大ら,光捕集能で電子スピンを効果的に超偏極

東京大学,九州大学,神戸大学,京都大学は,光捕集アンテナとして機能する金属錯体骨格(MOF)を用い,電子スピンを効果的に超偏極できることを解明した(ニュースリリース)。

近年,スピンの量子的性質を利用した量子技術が注目されている。特に,分子ベースの電子スピンは合成化学によって原子レベルで電子スピンの性能を制御でき,ボトムアップ的な手法によって精密な高次構造材料へと拡張できる。

色素とラジカル電子スピン(磁気的な性質を示す不対電子をもつ原子や分子,イオン)が共有結合で連結した分子は,色素の光励起によってスピン偏極した四重項状態(相互作用する3個の電子スピンのうち,その向きが平行な状態)を生成でき,量子情報科学やDNPなどへの応用が有望視される。

しかし,従来の超偏極四重項状態の生成は,色素-ラジカル電子スピン連結分子が固体内部でランダムに分散した系に限られていた。この場合,電子スピン間の相互作用の制御や,分析物との密接な相互作用の実現は困難だった。

そこで,電子スピンの位置を正確に制御する方法と,スピンを固体表面に配置し,分析物がスピン近傍に容易にアクセスできるような材料の開発が望まれていた。

研究では,色素から構成される金属錯体骨格(MOF)の金属中心にラジカル電子スピンを導入した材料を合成し,MOFの光捕集能によって電子スピンを効果的に超偏極することに成功した。

まず,色素としてポルフィリン誘導体(TCPP)から構成されるMOFを合成し,TEMPOラジカル誘導体(CTEMPO)を配位子交換によって金属中心へと導入することで,電子スピンの配置を制御した(MOF-525-CTEMPO)。

物質表面における時間分解電子スピン共鳴の測定によって,MOF-525-CTEMPOはポルフィリンの光励起後にスピン偏極した四重項状態を生成することが明らかになった。

また,MOF中で一重項励起子が拡散するという「光捕集能」を利用することで,ラジカル電子スピンの導入量が少ない状況でも効果的に電子スピンが偏極されることが明らかになった。

CTEMPOの導入量を系統的に変化させた一連のMOF材料を用いて蛍光寿命を比較し,この材料中では一重項励起子が35個のポルフィリンリンカーを移動して電子スピン偏極を生成していることが分かった。

これより,電子スピンの位置を正確に制御しながら効果的に超偏極するための材料設計指針が明らかになった。研究グループは,研究で用いた材料は多孔性固体のため,分析物を内部に取り込むことで電子スピンとの密接な相互作用が可能となり,量子センシングやDNPといった応用が期待されるとしている。

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