理化学研究所は,炭素がシート状に結合したナノグラフェンの効率的合成法を開発し,従来では難しかった,さまざまな官能基を持ったナノグラフェンの合成に成功した(ニュースリリース)。
さまざまな官能基を組み込んだ機能性ナノグラフェンは,特徴的な磁気特性・光学特性を示すため,次世代材料の鍵物質群として期待されている。一方,その合成には,多段階の経路が必須,組み込める官能基の種類が限られる,収率が極端に低い,などの課題が残されていた。
研究グループは,従来のナノグラフェン合成法のほとんどが強力な酸化剤や酸を使用していることが,機能性ナノグラフェンの合成が難しい原因だと考えた。そこで,中性から塩基性の条件下で実現可能な合成法の開発を行なった。そして,独自にデザインした出発原料にパラジウム触媒を作用させることで,ナノグラフェンの構造パターンであるジベンゾクリセンを一段階で得ることに成功した。
この合成法を利用して,これまで組み込むことが困難だったアミノ基やヒドロキシ基,カルボキシ基などの極性官能基,ピリジン環やキノリン環のようなヘテロ芳香環を含むナノグラフェンを合成した。
さらに,合成したナノグラフェンに対してさまざまな化学修飾を行ない,カチオン性ナノグラフェン,アゾベンゼン型ナノグラフェン,双性イオン型ナノグラフェンなど,今までほとんど未開拓であった新たな機能性ナノグラフェンを合成した。
次に,これらの機能性ナノグラフェンの性質を調査すると,それぞれが既存のナノグラフェンにはないユニークな特徴を持っていた。
①一般に,ナノグラフェンは,水やアルコールといった極性の高い溶媒にはほとんど溶けない。一方,正の電荷を持つカチオン性ナノグラフェンはこうした溶媒でも難なく溶けた。特に水への溶解性は,ナノグラフェンの生命科学分野への応用に重要な要素となる。
②アゾベンゼン型ナノグラフェンは紫外光に応答してトランス体からシス体へと構造変化(異性化)を起こし,加熱することで再びトランス体へと戻った。
③双性イオン型ナノグラフェンは,微量の水や酸を感知して500nmから650nmの可視光を吸収しなくなった。この性質は固体状態で顕著な色の変化として現れ,茶色の粉末が湿気のある空気中で橙色へ,酸性の蒸気の下では黄色へと速やかに変化した。このような挙動はベイポクロミズムと呼ばれ,有毒ガスや水分を検知するセンサーなどへ応用が期待される。
これらの性質は光駆動型メモリーやガスセンサー材料,ドラッグデリバリーなどに展開できると考えられ,研究グループは,ナノグラフェンの応用範囲を拡大する上で重要な知見となるとしている。